2011年 7月6日の新作昔話
茨木童子(羅生門の鬼)
大阪府の民話
今から千年ほどむかし、摂津の国(せっつのくに→大阪府)の茨木の里に、一人の男の子が生まれました。
この男の子は赤ん坊なのにとても大きな体で、髪の毛はすでに肩まで伸びているし、口には立派な歯が全部生えそろっているのです。
しかも生まれてすぐに、はいはいを始め、十日ほどすると普通のご飯を食べて、上手に歩き出したのでした。
それを見た里の人たちは、
「あれは、人の子か?」
「まさか」
「きっと、鬼の子じゃ」
と、うわさをしたのでした。
すると、それを聞いた男の子の両親も、だんだん心配になってきて、
「このままこの子が成長したら、本当に鬼や化け物になるかもしれんぞ。ここは一つ、この子の運命を神さまにお任せしよう」
と、両親は子どもを連れて、丹波の山奥へ行きました。
そして落ちている栗(くり)を拾うと、男の子に言いました。
「この栗は丹波栗と言って、とってもうまい栗だ。あちこちに落ちているから、好きなだけ食べてもいいぞ」
「わーい」
男の子が喜んで栗を拾い始めると、両親は男の子を置き去りにして帰っていったのです。
それに気づいた男の子は、さすがに泣きながら両親を探しましたが、どこにも両親がいない事がわかると泣きやんで、一人で生きていくことにしたのです。
やがて男の子は、素手でイノシシを倒すほどに成長しました。
ある日の事、若者になった男の子は、池に映る自分の姿を見てびっくりしました。
赤黒く日に焼けた毛むくじゃらの姿は、頭に角こそは生えていませんが、鬼にそっくりだったのです。
「そうか、わしは人間でなく、鬼だったのか。
それなら、人間の親に捨てられても仕方がないな。
でも、たとえ鬼であっても、わしを産んでくれた親には恩がある」
そう言って男の子は両親に最後の別れを言うために、生まれた村へと帰っていきました。
人に見つからないよう、夜になって自分の家に入った男の子は、家の中を見てびっくりです。
なんと自分の父親が病気で寝込んでおり、もう死ぬ寸前だったのです。
男の子が近づくと、父親は目を見開いて言いました。
「おお、わしは夢を見ているのか?
わしの息子が、戻ってきた。
二十年ぶりの、息子だ。
息子よ、山に捨てたりしてすまんかった。
わしも妻も、お前を捨てた事を後悔してな。
妻はあれから、すぐに体をくずして死んでしまった。
このわしも、お前を捨てた事を後悔する毎日だった。
・・・すまんかった。
・・・本当に、すまんかった。
・・・そして、わしが死ぬ前に、よう帰ってきてくれた。
・・・ありがとう」
父親はそう言うと、満足そうに死んでいったのです。
男の子は死んだ父親に手を合わせると、近所の人たちに父親の葬式を頼みました。
そして立ち去ろうとする男の子に、近所の人たちが尋ねました。
「そうか、お前が、あの時の子どもだったのか。
それでお前、今はどこに住んでいるのだ?」
「ああ、わしは、この頃は、京の都の東寺の、羅生門(らしょうもん)に住んどります。
京の人たちは、わしを『羅生門(らしょうもん)の鬼』と言うて怖がっていますが、あれはわしの事です」
「らっ、羅生門の鬼!?」
みんなは羅生門の鬼と聞いて、びっくりして震え上がりました。
羅生門の鬼と言えば、日本の鬼の大親分です。
でも男の子は、気にした様子もなく、
「それでは、あとをよろしく頼みます」
と、深く頭を下げて、再びどこかへ行ってしまいました。
おしまい
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