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2011年 7月11日の新作昔話

雨の夜の泣き声

雨の夜の泣き声
岐阜県の民話

 むかしむかし、飛騨の国(ひだのくに→岐阜県)の小坂村という所に、金右衛門という人が住んでいました。
 金右衛門の家の前には細い谷川が流れていて、その上に板の橋がかけてあります。
 この橋の先にある坂を登って峠をこえると、隣の村へ行く事が出来ます。
 だから日中は、金右衛門の家の前は人通りが絶えませんでした。
 でも夜は真っ暗なので、そこを通る人はいませんでした。

 ある晩の事、金右衛門の一家が夜なべ仕事をしていると、ふいに、
♪カラカラ、コトコト
と、橋を渡る大勢の足音が聞こえてきたのです。
(はて? こんな夜ふけに、誰が通るのだろう?)
 家の者は手を止めて、その音に耳を傾けました。
 しかしそれっきり、何も聞こえません。
「おかしいな? 確かに、大勢の足音がしたのに」
 不思議に思った金右衛門が戸のそばに行くと、今度は何やら、ひそひそと話す声が聞こえてきます。
「何か急用があって、誰かが隣村へ行くのかな?」
 金右衛門は思いきって、表の戸を開けてみました。
「おーい、誰かいるのか?」
 ところが、外には誰もいません。
「そんな、馬鹿な?」
 金右衛門の声を聞いて、家の者も出てきました。
「ねえ、もしかすると、お化けの仕業かもしれないよ」
 おかみさんに何気ない一言に、みんなは急に怖くなって、家に入ると戸締まりをして布団にもぐり込みました。

 そして次の夜も、
♪カラカラ、コトコト
と、大勢の人が橋を渡る音がして、しばらくすると、ひそひそ話が聞こえてきたのです。
 そこで金右衛門が表の戸を開けようとすると、家の者がみんな怖がって言いました。
「やめてよ。お化けが入ってきたら、どうするの」

 それからも毎晩、あやしげな足音と話し声が続きました。
「一体、何者が通るのだろう?」
 ある晩、金右衛門は、わざと戸を少し開けて、外の様子をうかがってみました。
 ところが不思議な事に、足音や、ひそひそ話は確かに聞こえるのに、人の姿が全く見えないのです。
 しかし足音や、ひそひそ話だけで、別に悪い事をするわけではありません。
 そのうちに金右衛門も家の者も慣れてしまい、足音やひそひそ話を気にしなくなりました。

 でも、それからしばらくしたある雨の降る晩。
 いつもの足音や話し声に続いて、しくしくと泣く様な声が聞こえて来たのです。
 それはとても気味の悪い泣き声で、いつもの様に聞き流す事が出来ません。
 しかもその泣き声は、朝まで続いたのです。

 その後も雨の降る晩は、この気味の悪い泣き声が聞こえてくるようになりました。
 こうなると、金右衛門も放ってはおけません。
 金右衛門は町へ行くと、占い師に事情を話してみました。
 すると占い師が、こう言いました。
「お前さんの家の前は、峠へ行く人が必ず通るところ。
 その峠を越えて隣村へ入り、その道をそのまま越中の国(えっちゅうのくに→富山県)まで行くと、やがて立山(たてやま)に行きつく。
 立山には恐ろしい地獄があって、生きている時に悪い事をした人間は亡者となってそこへ送られる。
 その亡者が、毎晩お前さんの家の前を通るのだよ。
 雨の日に聞こえる泣き声は、これから地獄へ行く亡者の悲しみの声じゃ」
「それでは、どうすればいいのですか?」
「亡者が迷わずに地獄へ行けるよう、追善(ついぜん)の供養をしてあげることだ」
「わかりました。ではさっそくにも、供養をすることにします」
 金右衛門は家に戻ると橋のそばにお経を書いた柱を立てて、お坊さんに亡者の為のお経をあげてもらいました。
 するとその晩から、怪しい足音も、ひそひそ話も聞こえなくなり、雨が降る晩にも、あの不気味な泣き声は聞こえなくなったという事です。

おしまい

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