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2011年 7月29日の新作昔話

鬼の目玉

鬼の目玉

 むかしむかし、ワラビ取りに行った娘が、道に迷ってしまいました。
 こまった娘がふと前を見ると、森の奥に大きなお屋敷があるではありませんか。
(こんな山の中に、どなたのお屋敷かしら?)
 娘は不思議に思いながらも、そのお屋敷に声をかけました。
「もし、どなたかおられますか?
 道に迷って、難儀(なんぎ)しております。
 どうか一晩、泊めてくださいませ」
 すると屋敷の中から若い男が現れて、親切に娘を迎えてくれました。
「それは、お困りでしょう。
 男の一人暮らしで使用人もおりませんから、大したもてなしも出来ませんが、それでよければ休んでお行きなさい」
 若者は礼儀正しく身なりも立派だったので、娘はすっかり安心して泊めてもらう事にしました。

 次の日、娘が目を覚ますと、もうすっかり朝ご飯の用意が出来ているではありませんか。
「泊めてもらった上に、朝ご飯の用意までしてもらうとは」
 娘はすっかり申し訳ない気持ちになり、せめてものご恩返しに家の仕事を手伝わせてもらおうと、もう一晩だけ泊めてほしいと若者に頼んだんだのです。
 すると若者は、にっこり笑って、
「家の事は、気にしなくても大丈夫ですよ。
 それより、あなたのような娘さんがいてくれると、わたしもうれしいのです。
 よければ一晩とはいわず、好きなだけ泊まっていきなさい」
と、娘に十三個の鍵(カギ)のついた、鉄の輪っかをくれました。
「わたしは用があって、昼間は家にいません。
 その間、退屈でしょうから、この鍵をお渡しします。
 この屋敷には鍵のかかった部屋が十三室あり、それぞれに面白い物が入っています。
 けれど、十三番目の鍵だけは、決して使ってはいけません。
 わたしも理由は分かりませんが、父からそのように言われたので、十三番目の部屋だけは開けた事がないのです」
 若者はそう言うと、どこかへ出かけてしまいました。

 一人になった娘は、せめて掃除でもしようと、若者からもらった鍵で部屋を開けてみました。
「まあ!」
 最初の部屋を開けると、そこは屋敷の中とは思えないほど広い野山が広がっていて、人形のように小さな人たちが、たくさん住んでいたのです。
 大人たちはおもちをつき、子どもたちがコマを回して遊んでいるので、ここがお正月の部屋だとわかりました。
 娘はすっかり楽しくなって、ほかの部屋も開けて見ました。

 次の部屋は二月の部屋で、あたり一面に梅の花が咲きみだれて、ウグイスが美しい声で鳴いています。
 三番目は三月で、小人たちがひな祭りをしています。
 四番目は四月で、花祭りなのか、小さな小さな仏さまに甘茶をかけてお祝いをしています。
 五月の部屋は、大小色とりどりの鯉のぼり。
 六月の部屋は、田植えをしています。
 七月は、七夕のお祭りです。
 八月は、十五夜です。
 九月は、菊の節句。
 十月は、田んぼの稲を刈り取っています。
 十一月は、大根の収穫です。
 十二月は雪景色で、子どもたちが雪合戦をして遊んでいます。
「どれもこれも、すてきだわ」
 こうして一年が終わりましたが、まだ最後に十三番目の部屋が残っています。
 娘はもう夢中になっていて、若者の言った言葉をすっかり忘れていました。
 娘が十三番目の部屋の鍵を開けてみると、中はガランとしていて、部屋のまん中に箱が一つ置いてあります。
 箱のふたを開けてみると中には水が入っていて、二つの丸い水晶玉が浮かんでいます。
「この水晶玉、まるで目玉のようだわ」
 娘は急に怖くなって、箱を閉めると部屋を出て元通りに鍵をかけました。

 さて、夜になると若者が帰ってきましたが、何だかひどくやつれた顔をしています。
「あの、何かあったのですか?」
 娘が心配して尋ねても、若者は首を振って、
「少しばかり、疲れているだけです。いつもの事だから、気にしなくてもいいですよ」
と、にっこり微笑み、すぐに寝てしまいました。

 次の日も、また次の日も、若者は出かけていくのですが、夜になると今にも死にそうな顔をして戻ってきて、娘が用意した夕飯を食べるとすぐに寝てしまうのです。
(毎日、だんだんとやつれていくわ。このままでは、死んでしまうかも)
 心配した娘は、ある日、若者のあとをつけてみる事にしました。
 そうとは知らない若者は家を出ると、またすぐに裏口から屋敷へと入っていきました。
 娘があとからと入ってみると、そこは屋敷の中ではなくて、暗い洞窟の中につながっていました。
 洞窟の中では真っ赤な火がごうごうと燃えていて、そのまわりには恐ろしい顔をした鬼たちが大勢いました。
 若者はその鬼たちに裸にされて、棒で叩かれたり、火であぶられたりしているのです。
 鬼の一人が、若者に怒鳴りました。
「やい、わしの目玉を、どこへやった! そろそろ白状しないと、本当に殺してしまうぞ!」
 その鬼の顔には目玉がなくて、二つの丸い穴がぽっかりと開いています。
「だからわたしは、何も知らないのだ」
「そんなはずはない! わしの目玉を取ったのは、お前の父親だ。息子のお前が、知らぬはずはないだろう!」
「何度も言うが、本当に知らないのだ」
 そのやりとりを聞いて、娘はハッと思いました。
(もしかすると、十三番目の部屋にあった二つの水晶玉は、鬼の目玉なのかもしれない)
 そう考えた娘は慌てて洞窟を出ると、十三番目の部屋から水晶玉を取って戻ってきました。
 そして鬼に、言いました。
「あなたが探している目玉というのは、これの事ではありませんか?」
 娘が差し出した水晶玉の一つを受け取った鬼が、顔に開いた穴にそれをはめ込みました。
 すると水晶玉の目が、娘をギロリとにらんで、
「これじゃ! これこそが、わしの目玉じゃ! 娘、もう一つあるはずだ。残りも寄こせ!」
と、こわい声で言うのです。
 けれど娘は、もう一つの水晶玉をしっかりと握りしめると、
「いいえ、その人を放してくれるまでは、これは返せません。はやく、その人を放してあげてください」
と、言いました。
 すると鬼は急におとなしくなって、水晶の目から涙を流しながら言うのです。
「怒鳴ったりして、すまない。
 それもこれも、目玉を取り戻したい一心でやった事。
 けっして、悪気はない。
 実は、わしはこのあたりで悪さをしていた鬼だが、この若者の父親にこらしめられて、目玉を抜かれてしまったのだ。
 あれからわしも、すっかり反省して、もう悪さはしない。
 目玉を返してくれれば、もう二度とこの男には手を出さぬし、人間たちの前には姿を現さぬと約束しよう」
「では、本当に改心するのですね。本当に、その人には危害を加えないのですね」
「ああ、鬼というのは、こう見えても約束は必ず守るのだ」
 そこで娘が目玉を返してやると、鬼は大喜びで若者を開放して、そのままどこかへ行ってしまいました。
 娘は、ぼろぼろになった若者を助け起こすと、
「ごめんなさい。開けてはいけないと言われたのに、十三番目の部屋を開けてしまいました」
と、若者にあやまって、鍵を返しました。
「いいえ、あなたのおかげで鬼も改心し、わたしも長い苦しみから解放されました。これでわたしも、成仏できます」
「成仏?」
「さあ、はやくここを出ましょう。
 ここは、あの世とこの世のはざまです。
 生身のあなたが、長くいてはいけません」
 若者はそう言って、娘を連れて洞窟を出ました。
「あっ、まぶしい」
 薄暗い洞窟から地上に出た娘は、日の光に目がくらんで、思わず目を閉じました。
 そして再び目を開けた時には、あの若者の姿も屋敷も無くなっていたのです。
「あら、どこへ行ってしまったのかしら?」
 娘がふと足下を見ると、あの若者の物なのか、真っ白いしゃれこうべ(→ずがいこつ)が一つ転がっていました。

おしまい

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