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2011年 8月22日の新作昔話

血まみれの女の生首

血まみれの女の生首

 むかしむかし、殿さまの屋敷に家来たちが集まって、お月見をしていました。
 雲ひとつない空に輝く月は、仲秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)ならではの美しさです。
 誰もが時のたつのも忘れて酒をくみかわしていると、ふいに築山(つきやま→庭園などに築いた小さな山)の上からころころと転がってくる物がありました。
「おや? なんだ? ・・・!!!」
 みんなが目をやると、なんとそれは、たった今、切ったばかりのように血のしたたる女の生首だったのです。
「いったい、誰が!」
「なんと、むごいことを」
 何人かの若い侍たちが刀を持って立ちあがるのを、年寄りの侍が止めました。
「あわてるでない! おそらくこれは、タヌキの仕業であろう。わしが今、正体をあばいてやる」
 年寄りの侍は床の間にある弓を取ると、矢をつがえるなり女の生首めがけて矢を放ちました。
 ヒュッ!
 矢は見事に生首のひたいを打ち抜いたのですが、そのとたん、生首は煙のように消えてしまいました。
「なるほど、やはりタヌキの仕業であったか」
「それにしても、 タヌキにしてはたいした化けっぷりじゃ」
 家来たちが感心していると、築山の上に再びさっきの生首が現れました。
「おのれ、こしゃくな」
 年寄りの侍が、再び弓をとって矢を放ちました。
 今度も矢は生首のひたいを打ち抜きましたが、生首はそのまま消えてしまいました。
「タヌキのやつ、何ともしつこい」
 そうこうする間にあたりが明るくなりはじめていたので、侍たちは生首が現れた築山のあたりを調べてみましたが、どこにも変わった様子はありません。
 その日は一日中、女の生首に化けたタヌキの話でもちきりでした。

 夜になると、また家来たちが集まってきて、女の生首の話をさかなに酒をくみかわしはじめました。
「矢にうたれながら二度も出てくるとは、タヌキもたいしたやつだな」
「ああ、しかしいくらなんでも、もう出てはこまい。いまごろはどこかで、タヌキの正体を現して死んでいるはずだ」
 話し合っているうちに、すっかり夜もふけたので、家来たちが引き上げようとしたとき、またしても築山の上から血まみれの女の生首が転がってきました。
 しかもおどろいた事に、昨日の二本の矢が突き刺さったままです。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 さすがの家来たちもびっくりして、その場に立ちすくんでしまいました。
 するとそこへ、殿さまがやって来ました。
 殿さまは有名な弓の名人で、その腕前は飛んでいる鳥を百発百中で射落とすほどです。
「なんだ、うわさのタヌキが化けた女の生首というのは、あれか」
 築山の下に転がっている生首をしばらく見つめていた殿さまは、年寄りの侍に言いました。
「あの生首は、偽物だ。本物は、生首の下に隠れている」
「かしこまりました」
 年寄りの侍は、生首の下の地面めがけて矢を放ちました。
 ヒュッ!
 すると、
「グギャーーー!」
と、すさまじい叫び声とともに生首が暴れだし、やがてそのまま動かなくなりました。
「それっ」
 一同が庭に飛び降りて生首のそばへかけよってみると、そこには生首ではなく二本の矢が刺さったカボチャが一つ転がっていて、その横に一匹の古ダヌキが、のどを射抜かれて死んでいたのです。

おしまい

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