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2011年 10月7日の新作昔話

ほら吹き男爵 老将軍の秘密

ほら吹き男爵 老将軍の秘密
ビュルガーの童話

 わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
 みんなからは、「ほらふき男爵」とよばれておる。
 今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。

 ところで君たちは、お酒を飲むと酔っぱらうと言うのは知っているな。
 わがはいはお酒が大好きで、しかもお酒にはめっぽう強い。
 つまり、多少飲んでも酔っぱらわないのだが、ロシア人というのは、このわがはい以上にお酒が強い。
 あそこは気候が寒いので、体を暖める必要からこうなったのだろうが、男でも女でもいくら飲んでもなかなか酔わないのだ。
 中でも、わがはいが特に感心したのは、宮廷の宴会でよく一緒になる老将軍だった。
 赤銅色の顔に、ごましおひげをピンと生やした歴戦の勇士は、トルコ戦争で頭蓋骨の上半分をなくしたので、いつも帽子をかぶったままだったが、新しいお客が入ってくると身分のへだてなく、
「帽子をかぶったままで、失礼させていただきます」
と、ていねいにあいさつをするのである。
 そして食事の間に、いつもぶどう酒を十数本は空にする。
 ところがこれはまだ序の口で、食事が終わると大だるに入った強いコニャック酒を、まるでぶどう酒の口直しみたいにガブガブと飲み干し、そして少しも酔った様子はなく、けろっとしているのだ。
「そんな、馬鹿な」
と、君たちも思うだろう。
 ごもっともだ。
 実際にこの目で見たわがはいだって、すぐには信じられなかったのだから。
「これには、何か秘密があるな」
 何事にも好奇心旺盛なわがはいは、ひそかに老将軍を観察した。
 そして何度目かの宴会の時に、
「ははぁーん、これだな」
と、その謎を解く、カギを見つけたのだ。
 それは老将軍がお酒を飲みながら、ときどき帽子をちょいと持ちあげるくせがあったからだ。
 しかも実に用心深く、誰にも気づかれないように、そっと帽子を持ちあげるのだ。
 そこで老将軍が帽子を持ちあげるタイミングを狙って、わがはいは床に落としたハンカチを拾うふりをしながら帽子の内側をのぞいてみた。
(なるほど)
 老将軍の謎は、たちまちとけた。
 なんと老将軍は帽子と一緒に、頭の銀の板も持ちあげていたのだ。
 その銀の板とは、老将軍が頭蓋骨のかわりに頭のふたにしているものだ。
 それを持ち上げるたびに老将軍の飲んだお酒は蒸気となって、ふわりふわりと外へ出ていくのだ。
 だから老将軍は、いくらお酒を飲んでも酔う事がなかったのだ。

 わがはいはさっそく、この新発見をまわりの連中に話したが、
「何を、馬鹿馬鹿しい」
「そんなはずが、ないだろう」
「くだらぬ、たわごとはよせ」
と、まるっきり信用してくれない。
「よし、では証明してやる」
 そう言うとわがはいは、こっそり老将軍の後ろにまわった。
 そして老将軍が帽子を持ち上げた時、手に持っていたパイプの火を立ち上る蒸気に近づけたのだ。
 すると蒸気は、たちまち美しい青い炎になって、老将軍の頭のまわりに光輝いた。
 これに気がついた老将軍は、
「なっ、なんという無礼な」
と、顔をまっ赤になって怒り出したが、わがはいがすぐに、
「将軍、お怒りになる事はありません。将軍の頭の後光は、どんな聖者よりも気高くて立派でございます」
と、言うと、老将軍はたちまち機嫌を良くして、その実験を何度もやらせてくれたのだ。

 お酒をいくらでも飲みたければ、この老将軍の様に、頭蓋骨の代わりに銀の板を取付けよう。
 これが、今日の教訓だ。

 では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。

おしまい

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