2011年 11月4日の新作昔話
七月七日のカッパ
新潟県の民話
むかしむかし、仕事で旅に出ていた男が、もうすぐ奥さんに子どもが生まれると言うので、急いで家に帰ろうとしていました。
そして、あと山を一つこえれば自分の村というところで、日が暮れてしまったのです。
「しまったな。こんなところで足止めとは」
そこで男は、道のわきにあるお堂に泊まる事にしました。
さて、その真夜中の事、
パッカ、パッカ、パッカ・・・。
遠くからやってくる馬のひづめの音に、男は目を覚ましました。
(誰じゃ、こんな時間に)
それがお堂の前で止まったかと思うと、こんな話し声が聞こえてきたのです。
「おい、どうした? はやくしないと、もうすぐ村のお産だよ」
「それがな、今夜はお客が来てるから、行けねえんだ」
「そうか。なら、一人で行ってくるわ」
誘いに来た声はそう言うと、
パッカ、パッカ、パッカ・・・。
と、馬のひづめの音とともに、遠ざかっていきました。
このやりとりを聞いて、男は思いました。
(これは、どこかの村で子どもが生まれるので、よそのお堂の神さまがこのお堂の神さまを呼びに来たんだな。
すると、お客が来てるというのは、おらの事か。
もしかすると子が生まれるというのは、おらの家かもしれんぞ)
やがて空が白みはじめた頃、また馬のひづめの音がやって来ました。
「いま、帰ってきた。お産は、無事に終わったぞ」
「それは、ごくろうさん。で、お産はどこの家じゃ?」
「ああ、この山をこえたところの・・・」
と、声が説明したのは、やはり男の村でした。
(やっぱり、おらの子じゃ)
男はドキドキしながら、耳をすましました。
「で、どっちが生まれたんじゃ?」
「男の子じゃ」
それを聞いた男は、大喜びです。
(男の子! 妻よ、でかした! よくぞ、男の子を産んでくれた!)
「それで、寿命はどうじゃ?」
(なに、寿命じゃと?)
「ああっ、七つの年、七月七日に、カッパに命を取られるまでじゃ」
「わかった。七ならびのカッパじゃな」
話を聞いた男はお堂を飛び出すと、わき目もふらずに山をこえて家にたどり着きました。
するとやはり、男の子が生まれていたのです。
「あのお堂の話は、本当だった。するとこの子は、七つの年の七月七日にカッパに命を・・・」
その日から男は、子どもが七歳になってもカッパに命を取られない様にと、毎日、水の神さまにお願いしました。
やがて男の子が七つの年になった七月六日の晩、男の夢枕に白髪のおじいさんが現れてこう言ったのです。
「明日の七月七日、お前の息子は川へ遊びに行くだろう。
だが、それを止めてはならん。
たとえ止めても、ほかの場所で命を落とすだけだ。
それより餅をついて、子どもに持たせてやれ。
その餅をカッパにやれば、お前の息子を襲う事はないかもしれん」
それを聞いた男は、さっそくたくさんの餅をついて、息子と近所の子どもたちに渡しました。
そして餅を川へ流して、カッパと水の神さまに差し上げるようにと頼んだのです。
まもなく子どもは、何事もなかったように笑顔で帰ってきました。
そして、男に言いました。
「父ちゃんに言われたように、あの餅を川に流したよ。
そして、おいらが川で水あびをしていたら、白髪のじいさまがきて、
『これは、餅の礼だ』
と、言って、この木の札を父ちゃんに渡せって」
子どもはそう言って、男に木の札を差し出しました。
男がその木の札を見てみると、そこにはこう書かれてありました。
《餅のおかげで、カッパとは話がついた。よって寿命を、七十二までのばす》
七十二歳と言えば、当時ではとても長生きです。
それから男の息子は、本当に七十二歳まで元気に生きたということです。
おしまい
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