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2011年 12月9日の新作昔話

ほら吹き男爵 月世界探検

ほら吹き男爵 月世界探検
ビュルガーの童話

 わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
 みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
 今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。

  以前に、わがはいが銀のオノを取り戻すために、月にのぼった話をした事があると思うが、あれはあまりにもあわただしい旅だったので、またそのうち月へ行って、今度は月世界の様子をくわしく調べたいと思っていた。

 そんなある日の事、大金持ちのおじがたずねてきて、
「なあ、きみは数多くの冒険をしたそうだが、ガリバー旅行記に出てくる巨人の国などは、現実にあるだろうか?」
と、わがはいに聞いた。
 そこでわがはいは、こう答えた。
「まあ、ないとは言えないでしょう。
 あの話は、わがはいの冒険談と同じで、事実を元に作った話ですから。
 とはいえ、この地球上では、ないのかもしれません。
 わがはいは地球中を冒険しましたが、巨人の国は見ておりませんので」
「すると、あるとすればどこかね?」
「まあ、あるとしたら月の世界でしょうな」
「それじゃ、さっそく月にのぼって、巨人の国を見つけてくれないか。
 巨人の国が見つかれば、きみの冒険家としての名声も高まるし、わしもおじとして鼻が高いというものだ」
 おお、これはうまい話になってきたぞ。
「しかし、月まで行くとなると、それなりの用意が必要ですし、それなりの用意には、それなりのお金が」
 するとおじが、胸を叩いて答えた。
「金の事は、心配するな。全てわしが用意するし、その上、見事成功したら、わしの全財産をきみにゆずろう」
 それを聞いて、わがはいは大喜びで引き受けた。
「では、行きましょう」
「それは、ありがたい。
 ところで月にのぼる方法は、前みたいにインゲン豆のつるでのぼるのかね?」
「いえ、あの時は、死ぬほど苦しみましたから」
「じゃ、気球かね」
「わがはいともあろう者が、そんな人まねが出来ますか。それより、おじさんの船を貸してください」
「船だって? 月にのぼるのに、どうして船がいるんだね?」
「ちょっと、考えがありますので」
 わがはいは思わせぶりに言ったが、わがはいを信用しているおじは深くは聞かずに、一そうの船を貸してくれた。
 わがはいは、さっそくその船に乗ってタヒチ島の沖合いへと出かけた。

 この辺りは、暴風で有名なところである。
 この暴風に巻き込まれると、人ばかりか、船まで空高く吹き飛ばされてしまうそうだ。
 さて、ここまで言えば、わがはいがどうやって月へ行くかがわかるだろう。

 わがはいは海上で、十八日間も暴風が来るのを待った。
 そしてそろそろしびれの切れはじめたころ、ものすごい暴風がおこって、わがはいの船はあっという間に上空に吹きあげられたのだ。
「それ、帆をはれ! 風をつかまえろ!」
 わがはいの号令に帆をはった船は、ますます空高く飛び上がった。
 そして風に吹かれて六週間後、船はきらきら光輝く丸い陸地へとたどり着いたのだ。
 ここが、地球から遠く離れた月世界だ。

 さて、今日の教訓は、『金持ちの身内は、大いに利用しろ』だ。
 お金に余裕のある人間は、自分の好きな事に関しては、とても太っ腹なのだ。
 きみたちの周りに金持ちの身内がいたら、少々無理な事でも思い切っておねだりしてみよう。
 なあに、断られてもともとだ。
 うまく行けば、きみたちの望みがかなうぞ。

 さて、次はいよいよ、月世界での話だ。
 この続きは、また今度してやろうな。

おしまい


 わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
 みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
 今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。

 暴風にのって、われわれはついに月世界にやって来た。
 月世界にも港があったので、わがはいの船はそこでいかりをおろした。
「男爵。ここが月世界ですか。あまり、変わりばえしないところですな」
 船長はがっかりした顔で、きょろきょろしていたその時、
 バサバサバサ!
と、上空で、すさまじい音が聞こえた。
 おどろいて見あげると、
「あーっ!」
 なんと、体が船の帆の六倍もあり、しかも三つの頭を持った大ハゲタカが、わがはいたちめがけてまいおりてくるではないか。
「おのれ、怪物!」
 わがはいは、すぐさま鉄砲をかまえた。
 するとハゲタカの背中から、
「ようこそ、月世界へ」
と、身の丈が十メートルもありような大男が降りてきたのだ。
 その顔を見て、わがはいたちはぞうっとした。
 大男の顔はふみつぶしたブルドッグのようなで、目が鼻の下の両側についているのだ。
 わがはいは、この怪物が書物で見たシリウス星の土人そっくりであることに気がついて、
(やはり、巨人の国は月世界にあったか)
と、気味悪くなりながらも、うれしくなった。
「みなさま、王さまがお待ちでございます。さあ、どうぞ」
 大男に言われて、わがはいたちはハゲタカの背中に乗り込んだ。
 ハゲタカは、すごいスピードで大空をぐんぐんと飛んだ。
「どうです、早いでしょう。月世界では、ハゲタカを馬のかわりに使っているんですよ」
 ふと下を見おろすと、何千人というこの大男と同じような大男たちが、大根をぶっつけあって、すべったり、ころんだりと、大騒ぎをしている。
「ほう、お百姓さんのけんかですか」
と、わがはいが聞くと、
「けんか? 冗談じゃない、あれは戦争ですよ」
と、大男は機嫌を悪くして言った。
「月世界の戦争は、大根をぶつけあって勝負を決めるのです。
 地球みたいに刀や鉄砲で殺しあうような、野蛮なまねはしません」
「なるほど、それは大らかな事で。でも、大根の季節がすぎたら、どうするのです?」
「その時は、アスパラガスのくきを使います。たては、キノコです。キノコは、年中手に入りますからね」
「ほう」

 そのうちに、わがはいたちを乗せたハゲタカは、王宮の広場へとたどりついた。
 そして、豪華な大広間に案内されると、
「やあ、きみが有名な、ミュンヒハウゼン男爵だね」
と、王さまは、にこにこして声をかけた。
「きみの武勇伝は、この月世界にまで知れわたっている。ひとつ、冒険談の数々を聞かせてはくれぬか」
「かしこまりました。喜んで」
 わがはいの武勇伝がこの月世界にまで届いていると知って大いに喜んだわがはいは、三日三晩ぶっ通しで、得意の冒険談を聞かせてやった。

 今日の教訓は、『芸は身を助ける』だ。
 わがはいの冒険は芸ではないが、得意な事をやり続ければ、いつかそれを評価してくれる者が現れる。
 わがはいに数多くの武勇伝があるからこそ、こうして月世界の王さまが招待してくれたのだ。

 さて、この月世界の話は長いので、続きはまた今度してやろうな。

おしまい

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