2011年 12月23日の新作昔話
ほら吹き男爵 刑期が終わって悲しむ罪人
ビュルガーの童話
わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。
これは、各地から罪人が送られてくる事で有名な、オーストラリアのボタニー湾へ行った時の事だ。
罪人が送られてくる所だから、どんなにひどい所かと思ったがとんでもない。
気候はいいし、自然に恵まれて作物は豊富だし、まるで南国の楽園だ。
罪人よりはむしろ、手柄のあった人へのご褒美として連れてきた方がよさそうに思われた。
そんなわけで、ここは罪人たちには大好評で、一度送られてくるとその味が忘れられず、ふつうは刑期が終われば大喜びで帰って行くのに、大部分の罪人が『もっと、ここに置いてくれ』と泣いて頼んで役人たちを困らすそうである。
そしてどうしても駄目だとわかると、わざと悪事をして刑期の延長をたくらむ者もいるそうだ。
そんな事は知らなかったわがはいは、危なくその手にひっかかるところだった。
ある日、町を散歩していると、通りすがりの男が、わがはいのポケットから財布を抜き取ったのだ。
「こらっ! なにをするか!」
もちろん、わがはいはすぐに犯人を捕まえて財布を取り返したが、そこは人情家のわがはい、犯人をこんこんといましめると、
「今度は許してやるが、もう二度とこんな事はするなよ」
と、警察にも渡さずに逃がしてやった。
とうぜん、相手は喜ぶかと思いきや、
「どうして、わしを警察に突き出してくれないんだ。あんたは、そんな薄情な男なのか」
と、反対に文句を言われたのだ。
よくよく聞いてみると、この男は刑期が終わったものの刑務所が恋しくて、わがはいを利用して逆戻りをはかったものとわかった。
人に親切をするのは、本当に難しい。
自分では親切のつもりでも、相手はそう思ってくれない事がよくあるからだ。
今日はその事を、教訓として覚えておいて欲しい。
では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。
おしまい
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