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2012年 2月24日の新作昔話

相撲取りに化けたタヌキ

相撲取りに化けたタヌキ

 むかしむかし、ある海辺の近くの山に、相撲(すもう)が大好きなタヌキがいました。

 ある日の事、タヌキは漁師の舟が浜辺に戻って来るのを見ると、くるりん! と、人間の相撲取りに化けました。
 そして魚をかついだ漁師たちが来ると、相撲取りに化けたタヌキは手足を広げて通せんぼをしました。
「どすこーい! おらと、相撲を取れ。そしておらが勝ったら、魚を全部置いていけ。どすこーい!」
 それを聞いて、漁師たちはびっくりです。
「冗談じゃねえ! 相撲取りに、相撲で勝てるわけがないだろう! さあ、どいてくれ」
 しかし相撲取りに化けたタヌキは、通せんぼをしたままどいてくれません。
 仕方がないので漁師たちは相撲を取る事にしたのですが、相撲取りに化けたタヌキの強い事。
 漁師たちは、ぽいぽいと投げ飛ばされてしまいました。
「あははは。では、約束通り魚をいただくぞ」
 相撲取りに化けたタヌキは、魚を全部持って山へ帰って行きました。
 それからもタヌキは毎日相撲取りに化けては、漁師たちと相撲を取って魚を全部取り上げました。

「まったく、なんとかならんのか?」
「これじゃ、相撲取りの為に魚を捕ってる様なものだ」
「しかし、相撲取りに相撲で勝てるわけがないし」
 漁師たちが相談していると、金(きん)という名前の、いつもブラブラ遊んでいる男がやって来て言いました。
「よし、おれにまかせろ」
 そして金は、イワシをたくさんかついで出かけました。

 イワシをかついだ金がやって来ると、タヌキが化けた相撲取りがいつもの様に通せんぼをしました。
「どすこーい! おらと、相撲を取れ」
「お前が、うわさの相撲取りだな。
 よし、お前が勝ったら、イワシをやろう。
 だが、おれが勝ったらどうする?」
「あははは。
 おらに、勝てると思っているのか?
 まあいい、おらが負けたら相撲をやめてやるよ」
「よーし、約束だぞ!」
 金はそう言うと仕切りの線を書いて、相撲取りに化けたタヌキとにらみ合いました。
 そして、お互いに腰を下ろしたとたん、金が叫びました。
「やったー! おれの勝ちだー!」
「へえ?」
 相撲取りに化けたタヌキは、何がなんだかわかりません。
「こら、勝ちも何も、まだ勝負は・・・」
 そう言って相撲取りに化けたタヌキが立ち上がった時、金は体ごと相撲取りに化けたタヌキにぶつかって行きました。
「すきあり!」
「うわっ!」
 相撲取りに化けたタヌキは、不意を突かれて思わず尻もちをつきました。
 金は、尻もちをついた相撲取りに言いました。
「これで、この勝負はおれの勝ちだ」
「ずるいぞ!」
「何を言う! ゆだんをした、お前が悪いんだ。さあ、約束通り、二度と相撲はするなよ」
「・・・くそー!」
 相撲取りに化けたタヌキは、くやしそうに山へ帰って行きました。
 そして二度と、姿を見せなかったそうです。

おしまい

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