2012年 3月5日の新作昔話
海の怪光(かいこう)
長崎県大村市の民話
むかしむかし、静かで美しい大村湾(おおむらわん)に、夜になると不思議な光が見えるようになりました。
湾の中に臼島(うすじま)という小さな島がありますが、光はその近くでよく現れのです。
不思議な光は黄色く光ったかと思えば、次の日は銀色に光ります。
そして次の日は青色と、毎晩の様に色が変わります。
「おらも見たが、ほんに妙な光だ」
「ああっ、しかもただ光るだけでなく、ぐるぐる回り出したり、急に消えたりしたぞ」
「これは、悪い事の前ぶれかもしれんな」
海辺の村人たちは、口々にうわさをしました。
そしてうわさが広まると、漁師たちは恐ろしくて海に出ようとはしませんでした。
やがてこのうわさは、お城の殿さまの耳にまで届きました。
殿さまが見に行っても、その不思議な光は毎晩のように現れます。
「うむ。これは、戦の起こる前ぶれじゃろうか? それとも、悪い病が流行る前ぶれじゃろうか?」
そこで殿さまは光の正体をつきとめようと、城下のあちこちに立て札を立てました。
《光の正体をつきとめた者には、ほうびをとらせる》
しかし村人たちは怖がって、誰一人申し出る者はいませんでした。
そんなある晩の事、三郎という若い漁師が一人で舟をこいで臼島へと向かいました。
(おらが、光の正体を確かめてやる)
その夜は、また一段と光が明るく輝く晩でした。
三郎は体に綱をゆわえると、暗い海の中に飛び込みました。
そして海底めがけてもぐっていくと、突然海の底からひと筋の白い光がさしてきました。
(よし、あれだな)
三郎が光をめざしてどんどんもぐっていくと、そこには今まで見た事がない大きな真珠貝(しんじゅがい)が、ぱっくりと口を開いているではありませんか。
その中にはこぶしほどの大きな真珠が入っていて、光はそこから出ているのです。
三郎は両手で真珠貝をかかえると、なんとか舟まで持っていきました。
次の日、三郎は真珠貝を持ってお城へ上がりました。
「殿さま、これが光の正体です。今夜から、光が現れる事はないでしょう」
その言葉通り、その夜から不思議な光が現れる事はありませんでした。
「三郎よ、よくやった。これで漁師たちも、安心して海に出られるだろう」
殿さまは大喜びで、三郎にたくさんのほうびを取らせらました。
この珍しい大真珠は大村の殿さまの家宝として、長く伝えられたそうです。
おしまい