2012年 4月2日の新作昔話
ほらふきの竹
群馬県の民話
むかしむかし、三人の商人が、宿屋でたまたま一緒になりました。
一人は奈良の商人で、一人は越後(えちご→新潟県)の商人で、もう一人は江戸の商人です。
三人は色々話をしているうちに、それぞれの国自慢を始めました。
まずは、奈良の商人が言いました。
「今度、奈良の大仏さまが湯に入る事になってな。その風呂おけをどうやって作ろうかと、大騒ぎだ。何しろ、あれだけ大きな大仏さまの入る風呂おけだからな、どれだけの大木がいる事やら」
「へえ、さすがは奈良の都、大したもんだ」
江戸の商人が感心して言うと、越後の商人が負けじと言いました。
「越後にだって、珍しい物があるぞ。わしの村に生えた竹は、丈が十里(じゅうり→約四キロメートル)で幅が一里もあって、毎日見物人の山で、押すな押すなの大賑わいだ」
「なるほど、十里の一里とは、大した竹だ」
江戸の商人は、すっかり感心してしまいました。
「ところで、江戸には何か変わった物はないのか?」
奈良の商人が尋ねました。
「そうだよ。あったら、ぜひ話してくれ」
越後の商人も、言いました。
「そうさな」
しばらく考えていた江戸の商人が、ふと思い出したように言いました。
「そう言えば、蔵前(くらまえ)というところで売っている団子は、これがえらい人気で、一串に三個刺したのが、一日で何万本も売れるよ」
「ほう、そりゃ、すごい数だ。」
「よっぽど、うまい団子にちがいない」
奈良の商人も越後の商人も、思わずつばを飲み込みました。
お互いに感心しあっているうちに、話だけではつまらないので、どれか一つだけでも三人一緒に見物しようという事になりました。
そこで三人でくじ引きをしたら、越後の村の竹見物に決まったのです。
決まった越後の商人は、困ってしまいました。
(弱ったなあ。こんな事になるなら、あんなほらなんか、ふかなければよかった)
でも、今さらうそだったなんて言えないので、越後の商人は仕方なく二人を自分の国へ連れて行き、村の入り口まで来ると、二人をそこに待たせて大急ぎで家に戻りました。
そして、自分の奥さんを見つけると、
「お前、どうしよう? えらい事になってしまった」
と、今での事を話して聞かせました。
すると奥さんは、ニッコリ笑って言いました。
「大丈夫よ。わたしに任せておきなさい」
そして商人に、待たせてある二人を連れてくるように言いました。
「これはこれは、遠い所をよく来てくれました。まずは、お茶でも飲んでくださいな」
奥さんが、愛想良く二人を出迎えました。
ところが奈良の商人は、お茶を飲むのももどかしく、
「さあ、早くその竹を見せてくれ」
と、言うのです。
するとおかみさんが、残念そうに首を振りました。
「まことに残念です。もう一日早ければ、見せられたのですが。実は、奈良の大仏さまの風呂おけを作るとかで、そのたが(→おけやたるのまわりにはめる輪)にする為、昨日のうちに切って奈良に持って行きました」
「大仏の風呂おけに! ・・・いや、それは仕方ない」
奈良の商人は、思わず口を閉じてしまいました。
それを見て、今度は江戸の商人が言いました。
「そいつは残念。ならせめて、その枝だけでも見たいものだ」
「そうだ。たがを作るのに枝は必要ない。いくら何でも、枝は残っているはず」
奈良の商人が、相づちを打ちました。
するとおかみさんは、また残念そうに言いました。
「それが、江戸の蔵前では、団子が毎日何万本も売れるそうで、その串にするとかで枝を全部持って行きました」
「うーん。それは仕方がない。・・・でもそれなら、残っている葉だけでも」
「その葉は、団子の包みにすると言って、残らず持って行きました」
そして、がっかりする奈良の商人と江戸の商人に、おかみさんはにっこり笑って言いました。
「でも、竹で作った大きなたがも、枝で作った串や包みにする葉も、奈良や江戸に行けばあるはずです。なんなら、これから見に行きますか?」
「えっ? ・・・」
「それは、・・・」
これには、奈良の商人も江戸の商人も、言い返す言葉がありませんでした。
おしまい