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2012年 4月16日の新作昔話

宝来る水

宝来る水
岡山県の民話

 むかしむかし、あるところに、大変縁起を担ぐ長者がいました。
 大晦日の晩、長者は下男を呼んで言いつけました。
「明日は正月だから、早起きして若水(わかみず)を汲んでおくようにな」
 すると下男は、首をかしげて言いました。
「はて、旦那さま、若水とは、どんな物でしょう?」
「なんじゃ、お前は若水を知らんのか。いいか、若水というのは、新年の最初に汲む水の事で、災いや病気などの邪気を追い払うと言われておる。この家では代々、川に塩をまいてお清めしてから汲んでいるのじゃ。わかったか?」
「へえ、わかりやした」
 下男は年始めの大事をおおせつかって、わくわくしながら眠りました。
 さて、一夜明けて正月の元旦となりました。
 下男は張り切って起きたのですが、ところが外は昨夜からの雪が降り積もって、足のすねまで隠れる大雪です。
「これは困ったな。こんなに足下が悪くては、川にはまってしまうぞ」
 どうしようかと考えていると、ちょうど、田んぼの口(くち)から水が出ているのに気づきました。
「よし、あれがよかろう」
 こうして下男はその水を汲んだのですが、その様子を女中が見ていて、長者に知らせたのです。

「へい、旦那さま。ただいま戻りました」
 長者に挨拶をする下男に、長者は怖い顔でにらみつけて言いました。
「こら! お前、今、何をしていた」
「何って、旦那さまに言われて、若水を取りに行った帰りですが」
「何が若水だ! 女中から聞いたが、お前は近くの田んぼの水を汲んだそうじゃないか。このあほう! 新年早々、縁起でもない! ええい、お前みたいなやつは、この屋敷には置いておけん。今すぐ出て行け!」
 長者はカンカンになって怒りましたが、下男はけろりとした顔で言いました。
「旦那さま、それは考え違いです。わしは縁起が良いと思い、田から来る水を汲んで来たのです」
「どこが縁起が良いんじゃ! よりにもよって、若水を田んぼから汲んでくるなんて!」
「いえいえ、そうじゃありません、旦那さま。いいですか、田から来る水は、つまり、宝来る水です」
「うん? 田から来る水は、宝来る水?」
 長者はしばらく考えていましたが、ようやく意味がわかって、ポンと膝を叩きました。
「おお、そうか。田から来る水は、宝来る水。つまり、お宝が来る水という訳か! うむ。確かにこれは、縁起の良い若水じゃ」
 長者は喜んで、下男にたくさんのお年玉をあげたということです。

おしまい

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