木のまた手紙と、まっ黒手紙
2012年 4月20日の新作昔話
木のまた手紙と、まっ黒手紙
むかしむかし、あるところに、おばあさんと娘がいました。
娘はよその村へ、お嫁にいったのですが、お正月にも帰ってきません。
「娘は、どうしているだろう？ たまには、娘の顔が見たいものじゃ」
おばあさんがそう思っていると、近くの人が娘のいる村へ用事があって出かけることになりました。
そこでおばあさんは、その人に手紙をあずけました。
手紙をあずかった人は、不思議に思いました。
「おばあさんは、字を知らないはずなのに」
とにかく手紙を届けると、中に何が書いてあるのか娘さんと見てみました。
すると手紙の中には、小さな木のまたがいくつか入っていただけで、字は一つも書いてありません。
手紙を届けた人は、首をひねって、
「木のまただけの手紙とは。何かのなぞかけのようじゃが、お前さんにはわかるかい？」
と、娘さんに尋ねました。
すると娘さんは、ニッコリ笑って。
「はい。わからないで、どうします」
娘さんは、小さな木のまたを手にとると、なぞかけの意味を説明しました。
「お前《また》、なぜ《また》、こない《また》、ちっと《また》、こいや《また》」
そしてすぐに返事を書くと、おばあさんに届けてくれるよう、その人に頼みました。
返事を届けた人は、またも不思議がりました。
「はて、娘さんも字を書けないはずだが」
そこでおばあさんと一緒に手紙を開けると、一枚の丈夫な紙に、真っ黒い墨がすきまなくぬりつけてあるだけでした。
「はて、黒く塗りつぶされた手紙とは、何のなぞかけか、さっぱりわからん」
手紙を届けた人は首をかしげましたが、でもおばあさんには、娘の様子がすぐにわかった様で、こう言いました。
「そうか、そうか。丈夫でいるが、忙しくて、ちっともすきがなくて、帰ってこられんのか。今にすきが出来たら、帰って来るんだな」
おしまい