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2012年 5月14日の新作昔話

正直者のスエン

正直者のスエン
スウェーデンの昔話

 むかしむかし、重い病気にかかったお百姓が、三人の息子に財産を分ける事にしました。
 けれど貧乏だったので、上の二人に家や家具を与えると、末っ子のスエンには何も残りませんでした。
 お百姓は、スエンに謝りました。
「すまないね。お前にやれるのは、わたしの心と、死んだ妻が作ってくれた造花だけだ」
 するとスエンは、喜んで言いました。
「お母さんの作ってくれた造花は、この世で一番美しい物です。そして、いつも正直でやさしいお父さんの心は、この世で一番素晴らしい物です」
 やがてお父さんが亡くなると、スエンは造花と自分が作った弓を持って、元気に旅に出ました。

 やがてスエンは、王さまの住んでいる都に着きました。
 その頃、お城では王さまに仕える新しい家来を探しているところでした。
 スエンは、その話を聞くと、
(ぼくも、申し込んでみよう)
と、すぐにお城に行きました。
 立派な部屋に通されると、金の王座に座った王さまが言いました。
「そんなみすぼらしい格好で、よくこの城に来たものだ。まあいい、お前は弓を持っているが、腕前を見せてみろ」
 そこでスエンは、お姫さまの手のひらにサクランボウの種を乗せて、その種を見事に射落としたのです。
 すると王さまは感心して、
「他に、何か特技はあるのか?」
と、聞きました。
 するとスエンは、真面目な顔をして、
「王さま、わたしは死んだ父から、正直な心を受け継ぎました。わたしが自慢出来るのは、うそをつかない事です」
と、答えました。
 意外な答えに、王さまは笑って、
「うそをつかないのが自慢か。では聞くが、姫はこの世でで一番美しいかな?」
と、お姫さまを指さして尋ねました。
「はい、とてもお美しいです。でも、一番ではありません。この世には、お姫さまよりも美しい女性はたくさんいます。そして、わたしがこの世で一番美しいと思う物は、母が作ってくれた造花です」
 スエンが正直に答えると、お姫さまは、ぷーっと、機嫌が悪くなりました。
 でも、王さまはスエンが気にいって言いました。
「今夜、わしの部屋の前で見張りをしてみろ。うまくできたら、家来にしてやろう」
 それから王さまは、スエンにごちそうを食べさせて、ぶどう酒を飲ませてやりました。
 そしてお腹がいっぱいになったスエンは、見張りをするために、王さまの寝室の前に行きました。
 そこにはテーブルがあって、そのテーブルには王冠と金のくさりが乗せてあります。
「いいか、決して眠ってはならんぞ。もし眠ったら、死刑だからな」
 王さまはそう言うと、寝室に入ってしまいました。
 スエンは一生懸命に見張りを続けましたが、どういうわけか、眠たくてたまりません。
 そして気がつくと、ぐうぐうと寝込んでいたのです。
「しまった!」
 目を覚ましたスエンは、テーブルの上の王冠と金のくさりがなくなっているのを見て驚きました。
 このままだと、スエンは死刑になってしまいます。
 けれど、父親から正直な心を受け継いだスエンには、だまって逃げる事が出来ません。
 翌朝、王さまが起きてくると、スエンは正直に寝てしまったことを話しました。
 王さまは、スエンに尋ねました。
「殺されるかもしれないのに、なぜ逃げなかった?」
 スエンは、胸を張ってきっぱりと言いました。
「父から正直な心を受け継いだわたしは、うそやひきょうな事しません。さあ、死刑にしてください」
 すると王さまは、スエンにニッコリ微笑んで、
「許してくれ。お前が本当に正直な心を持っているのか、試したのだ」
と、謝って、昨日の晩、ぶどう酒に眠り薬を入れた事を白状したのです。
 もちろん、王冠と金のくさりを隠したのも、王さまの仕業でした。
 こうして王さまの家来になったスエンは、正直な心で人々の人望を集めて出世して、やがてお姫さまと結婚してこの国の王さまになったのです。
 その時スエンは、お姫さまへの贈り物に宝物の造花をあげたそうです。

おしまい

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