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2012年 5月18日の新作昔話

海に落ちた財布

海に落ちた財布
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 むかしむかし、ある国に、とても貧乏で困っているヌーイという男の人がいました。
 ヌーイが知り合いのところに、お金を借りに行っても、
「ふん。人に貸す金などないよ」
と、冷たい返事ばかりです。
「ああ、どうしたら、いいんだろう」
 この時、ヌーイは、子どもの頃から仲の良かった一人の友だちの事を思い出しました。
「そうだ。あの友だちの所へ行けば、きっと助けてくれるにちがいない」
 ヌーイは出かけていって、頼みました。
「ねえ、きみ、すまないが、お金を貸してくれないか?」
「ああ、いいとも」
 友だちは、すぐにお金を貸してくれました。
「ありがたい.、助かるよ」
 でもヌーイは、心の中でこんな事を考えていたのです。
(借りたお金を持って船に乗り、外国へ逃げてしまおう。そうすれば、返さなくてもいいからな)
 そして、船に乗ろうと港へやってきました。
 ところが船に乗り込む途中、
 ポッチャーン!
と、海の中に財布を落としてしまったのです。
 そしてその財布は、ちょうどそこへやって来た大きな魚がエサと間違えて、パクリと飲み込んでしまいました。
 次の朝、近くの海で、お金を貸してくれた友だちの召使いが魚を取っていました。
 そして魚取りのアミを投げると、偶然にも、ヌーイの財布を飲み込んだ魚がかかったのです。
 召使いは、魚と財布を主人に見せました。
「これは大変だ。ヌーイが財布を落としたんだ」

 それから少しして、ヌーイがまたお金を借りにやって来ました。
「お願いだ。もう一度、お金を貸してくれないか。きっと返すから」
「うん、いいよ」
 友だちは、またお金を貸してくれました。
 この時ヌーイは、心の中で思ったのです。
(神さま。どうか、このやさしい友だちのお金を二度と落としたりしませんように。そしていつか、きっとお金を返せる時が来ますように。どうかわたしの商売を、成功させてください)

 それから、何年かたちました。
 ヌーイは商売に成功して、とてもお金がもうかったのです。
 ヌーイは友だちの所へ行って、お金を返しました。
「本当にありがとう。
 あの時、きみがお金を貸してくれなかったら、今のぼくはなかったよ。
 実は、ぼくは最初、きみにお金を借りた時、とても悪い事を考えていたんだ。
 このお金を持って、外国へ逃げ出してしまおうとね。
 ところが、港でお金を落としてしまったんだ。
 だが、きみはまた貸してくれた。
 その時、ぼくは神さまに祈ったんだ。
 どうか、親切な友だちの貸してくれたこのお金を、きっと返せますようにと。
 そして、きみの貸してくれたお金を元手に商売がうまくいって、どんどんお金が増えていった。
 だからこうして、返しに来ることが出来たんだ」
 それを聞いて、友だちは言いました。
「実はぼくも、きみに言う事がある。
 きみが海に落とした財布は、ぼくは預かっているんだ。
 だからその分は、返してもらわなくていいんだよ。
 それにしても、きみの商売が成功して、本当によかったね」
 そして二人は、いつまでも仲良く助け合ったそうです。

おしまい

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