きょうの新作昔話
童話集 > 新作

2012年 6月4日の新作昔話

左甚五郎の彫ったヤマネコ

左甚五郎の彫ったヤマネコ
新潟県の昔話

 むかしむかし、ある村に、杢市(もくいち)という、目の不自由なあんま(→マッサージ師)がいました。
 ある日の事、杢市はお寺のお堂に住む、珍念(ちんねん)という坊さんにあんまを頼まれたので、さっそく出かけていきました。
 そして珍念の体をもみはじめるなり、杢市の顔がみるみる青ざめていったのです。
(この手触りは、人間ではない!)
 杢市の様子に気づいた珍念は、キバをむくと、うなるような声で言いました。
「杢市よ、わしの事を誰にも話すでないぞ。もし話したら、お前の命はないと思え」
 なんと珍念の正体は、ヤマネコの化け物だったのです。
 ヤマネコは杢市をにらみつけると、お堂から逃げていきました。
 ヤマネコがいなくなった事を知った杢市は、村までの道を何度も転びながら、やっとの思いで家まで逃げ帰りました。
 そして傷だらけになった杢市を心配してやってきた近所の人たちに、つい、ヤマネコの事を話してしまったのです。
 さあ、自分たちがいつも参拝しているお堂に、ヤマネコの化け物が住みついていると知った村人たちは相談をして、すぐに山狩りをしてヤマネコを退治する事にしました。
 次の日の朝、村の人たちは棒や竹やりを持って、お寺のある山をぐるりと取り囲みました。
 そして日暮れまでヤマネコを探しましたが、だれ一人ヤマネコの姿を見つけた者はいませんでした。
「ひょっとしたら、お堂の中に隠れているのかもしれんぞ」
 そこで二十人ばかりの若者がお堂に入り、あちこちを探し回りました。
 そのときです。
 天井裏から大きな布袋の様な物が、ドサッと落ちてきたのです。
「ヤマネコだ! 逃がすな、はやく捕まえろ!」
 若者たちは、そのヤマネコをお堂のすみへ追いつめると、持っていた棒でヤマネコを退治したのです。
 その次の年から、村では毎年正月三日になると、ヤマネコの皮をはいだ敷物をお堂の床に広げて、それを見ながら化け物退治を祝った酒盛りをするようになりました。
 さて、それから何年かたった、ある春の日の事、左甚五郎(ひだりじんごろう)という有名な彫物師が、このヤマネコ退治の話を聞いてこう言いました。
「この寺には、殺されたヤマネコの怨念(おんねん)がさまよっている。何も悪い事をしていないのに殺されて、さぞ無念であったろう。ヤマネコがたたりを起こす前に、なぐさめとして、ヤマネコを彫ってやろう」
 そして甚五郎は、お寺のお堂の棟木にヤマネコの顔を彫ったのです。
 するとそれにヤマネコの魂が宿ったのか、毎年春の夜になると、このヤマネコの顔が悲しい声をあげて、
「ニャー、ニャー」
と、泣くようになったという事です。

おしまい

きょうの「366日への旅」
記念日検索
きょうは何の日?
誕生花検索
きょうの誕生花
誕生日検索
きょうの誕生日

トップへ