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2012年 6月25日の新作昔話

大切な一文銭

大切な一文銭
東京都の民話

 むかしむかし、葛飾(かつしか)に、青砥左衛門尉藤綱というお侍がいました。
 ある日の事、青砥がお供を連れて川辺を歩いていると、一枚の一文銭を川に落としてしまったのです。
 一文銭は、今の二〜三十円ほどの価値で、川に落ちてしまったものを、わざわざ拾う人はいません。
 ところが青砥は、お供たちに言いました。
「すまんが、お前たち、川へ入って一文銭を探してくれないか」
 お供たちは、なんで一文銭なんかをと、思いましたが、主人の命令だから仕方ありません。
 みんなは川へ入っていくと、落ちた一文銭を探し始めました。
 けれど一文銭はなかなか見つからず、やがて日が沈み、あたりは暗くなってきました。
 お供たちも、さすがに疲れ果てて、
「殿、そろそろおあきらめになってはいかがでしょうか?」
と、言いました。
 ところが青砥は、首を横に振ります。
「いや、一文銭といえども粗末にしてはならん。町へ行って松明(たいまつ)を買ってきておくれ。それからこの金で、出来るだけ多くの人を集めてきておくれ」
 そう言ってお供に財布を渡すと、みずから川に入って一文銭を探し始めたのです。
 これには、お供たちもびっくりして、
「たった一文銭の為に、このような大金を使うのですか? これでは一文銭が見つかっても、損ではありませんか?」
と、いいました。
 すると青砥は、こう言いました。
「よいか、たった一文とはいえ、我ら武士が持つ金は、領民が汗水たらして働いて納めた税から頂いた物だ。それを川に落としてしまったからあきらめるでは、税を納めてくれた領民に申しわけがたたぬ。拾わぬ一文銭は、川に落ちた石ころと同じだ。そして、一文銭を探すために町で使う金は、領民の手に戻る。領民はその金で食べ物や着物を買うだろう。だからこうして金を使うことは、決して無駄にはならんのだ」

 結局、一文銭は見つかりませんでしたが、自分たちのお金は領民が納めてくれた税であり、わずかでも決して粗末にしてはいけないという青砥の教えは、このお話しを通じて全国の武士たちに広く伝わったのです。

おしまい

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