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2012年 7月23日の新作昔話

夜の蜘蛛

夜の蜘蛛
愛知県の民話

 むかしむかし、あるところに、若い男が住んでいました。
 そろそろ嫁をもらう年頃ですが、男にそんな気配はありません。
 そこで村人たちが話を聞くと、
「嫁は欲しいが、わしが望むような女がおらんのじゃ」
と、言うのです。
「望むような女がおらんというが、どんな女が望みなんじゃ?」
 村人が尋ねると、男は指で数えながら答えました。
「まず第一に、器量が良くなくてはならん。
 第二に、よく食べる女は嫌じゃ。米がもったいないからな。出来れば、何も食べん女がいい。
 第三に、よく働く女がいい」
「馬鹿か、お前は。どこを探せば、そんな都合のいい女がいるんじゃ!」
 村人は馬鹿馬鹿しくなって、帰って行きました。
 でもそれから数日後、男の望み通りの女が現れたのです。
 その女は、道の迷って男の家に泊めてもらい、そのまま居着いて男の女房になったのですが、これが器量よし、よく働く、そして物を食べないのです。
 男はとても喜んでいましたが、村人たちはそんな女を気味悪く思っていました。

 さて、ある日の事、女房が男を自分の里へ連れて行きたいと言うので、男は女房と一緒に山道を登っていきました。
 そしてずいぶんと来たところで、男のお腹が急に痛くなったのです。
「あたっ、あいたたたた。・・・これでは、お前の里へは行けんぞ」
「もう少しなので、わたしが背中に背負ってあげましょう」
 女房はそう言うと若者を、ひょいと背中へ担ぎました。
 やがてお腹の痛みも良くなり、女房の背中のぬくもりが気持よくて、男はウトウトと眠ってしまいました。
 そして男が目を覚ますと、女房は男を草の上に降ろして、煙草を一服していたのです。
 男が女房に声をかけようとすると、女房が突然大きな声を出して言いました。
「お―い、人間を捕まえてきたぞ。今はよく寝ているから、早く食いに来いや!」
 それを聞いた男はびっくり。
(おれの女房は、人食いの化け物だったのか! このままでは殺されるぞ!)
 そこで男は女房のすきを見て、そばにある菖蒲(しょうぶ)と蓬(よもぎ)の生い茂る草むらへと飛び込んで、じっと身を隠しました。
 そして外の様子をのぞいてみると、大きな蛇の姿に変わった女房のまわりへ、大小の蛇が目を輝かせながら、ウヨウヨと集まってきたのです。
「どうした? お前が連れてきた獲物が見えんぞ」
「ああ、うっかり逃がしてしまった」
「それで、どうする?」
「仕方ない。今夜、みんなで村に人間を捕まえに行こう」
 これを聞いた男は、転げるように山道走って、なんとか村へ戻ってきました。
 そして男からわけ聞いた村人たちは、男の家の前でたき火をたきながら、手に手に武器を持って、蛇がやってくるのを待ちかまえました。
 すると突然、空から大きなクモが飛んできて、男の前へ降り立ったのです。
 クモは長い脚を広げて男に襲いかかりましたが、男はそばにあったほうきで、クモをたき火の中へたたき込みました。
 するとこの大グモは数十匹のヘビへと姿を変えて、たき火の煙と炎に巻かれて、みんな死んでしまいました。
 さて、この事があってから、
《夜の蜘蛛は、親に似ていても殺せ》
と、言うようになったのです。

 そしてこの日が五月五日だったので、それ以来、五月五日には魔物を近づけない様に、菖蒲と蓬の葉を家の屋根の上に乗せる様になったそうです。

おしまい

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