きょうの新作昔話
童話集 > 新作

2012年 8月6日の新作昔話

かかと太郎

かかと太郎
青森県の昔話

 むかしむかし、ある山の崖の上に、山姥(やまんば)が小さな小屋を建てて住んでいました。
 山姥は、山から里にやって来ては、
「酒を出せ! 食べ物を出せ!」
と、叫んで歩いていました。
 里には若夫婦が住んでいて、お嫁さんのお腹には赤ちゃんがいます。
 ある日の事、夫が町に買い出しに行く事になりました。
 するとお嫁さんは、
「一人だと山姥が怖いから、わたしも連れて行って」
と、頼みました。
「しかしな、外はこの大雪だから、もし転んでお腹を打ったりしたら大変だ。それにこの大雪なら、さすがに山姥も来ないだろう」
「でも・・・」
「そんなに心配なら、お前を長持(ながもち)の中に入れてカギをかけ、家の高い所に吊してやろう」
「はい、お願いします」
 夫はお嫁さんを長持の中に入れてカギをかけると、天井の張りに吊して出かけました。
 ところが夕方になると雪が止んだので、山姥が里にやって来たのです。
「酒を出せ、食べ物を出せ」
 山姥は若夫婦の家の前で立ち止まると、家の中に入ってきました。
 そして、
「酒を出せ、食べ物を出せ」
と、言いますが、返事がありません。
「おや? 確かに家の中から人間のにおいがしたのだが」
 山姥は家中を探し回ると、大きな声で言いました。
「どこだ! どこに隠れた! 隠れていても、わしにはにおいでわかるんだぞ!」
 お嫁さんは天井の長持の中で息をひそめて、ブルブルと震えていました。
「ふむ、出てこないつもりか」
 やがて山姥は、お嫁さんのたんすから縫い針を取り出すと、それの縫い針に命令しました。
「さあ、お前の持ち主の所へ、飛んでいけ!」
 すると縫い針は、
 パン!
と、音をたてて飛び上がると、天井に吊された長持に矢の様に突きささったのです。
「そうか、あそこだな」
 山姥は手足の鋭いツメを家の壁に突き刺すと、ヤモリの様に壁や天井を登っていき、吊された長持ちの縄を切り落としました。
 そして長持を壊すと、中でブルブル震えているお嫁さんを頭からバリバリと食べ始めたのです。

 その日の夜遅く、夫が家に帰ってみると、家の中には壊された長持と、山姥が固くて食べ残したお嫁さんのかかとが残されていたのです。
 それを見て全ての事を知った夫は、泣きながらお嫁さんのかかとを紙袋に入れました。
 そしてそれを仏壇に置いて毎日毎日お経を唱えて、殺されたお嫁さんとお腹にいた赤ちゃんの成仏を祈りました。

 さて、そんなある日の事、お嫁さんのかかとを入れていた紙袋からゴソゴソと音がするので、不思議に思った夫が中を見てみると、なんとかかとのまん中がぱっくりと割れて、中から小さな男の子か生まれたのです。
 夫はびっくりしましたが、この男の子こそ、お嫁さんと赤ちゃんの生まれ変わりに違いないと思い、男の子にかかとから生まれたので『かかと太郎』と名付けて大切に育てたのです。

 さて、このかかと太郎は、生まれた時は小さかったものの、ご飯を一杯食べさせると一杯分だけ、二杯食べさせると二杯分だけ、三杯食べさせると三杯分だけ大きくなる子どもで、二十歳になる頃には、村一番の大男になっていたのです。
 そして父親から母親が山姥に食べられた事を聞かさせたかかと太郎は、山姥退治を決心すると、ある冬の寒い日に、白くて平たい石と菜種油(なたねあぶら)と太い縄とを持って、山姥のいる山へと出かけていきました。
 そして道に迷った旅人をよそおって山姥の小屋に入れてもらうと、泊めてもらうお礼にと、山姥の好きなお餅を焼くふりをして、持ってきた白くて平たい石を焼き始めたのです。
 そして湯飲みに、菜種油をなみなみとそそぐと、
「ばあさん、餅が焼けたぞ」
と、焼けた白い石を山姥に差し出したのです。
「おお、これは白くてうまそうな餅だ」
 山姥は大好物のお餅によだれを垂らすと、一口でその焼けた白い石を飲み込んでしまいました。
 そのとたん、
「あぢぢ! あぢぢ!」
と、お腹の中をやけどして、山姥は転げ回りました。
「あわてて食うからだ。ほれ、この水を飲め」
 かかと太郎が菜種油の入った湯飲みを差し出すと、山姥はそれを一気に飲みほしました。
 するとお腹の中で菜種油が燃え上がってしまい、さすがの山姥も気を失ってしまいました。
 そこで、かかと太郎は、
「今までに、おらのおっかあや、村人たちを食った罰だ!」
と、持ってきた太い縄で山姥をグルグル巻きにすると、山姥を小屋の外へ引きずって行き、深い谷底へと突き落としたのです。

 それから山姥が現れることはなくなり、里の人々は平和の暮らすことが出来たのです。

おしまい

きょうの「366日への旅」
記念日検索
きょうは何の日?
誕生花検索
きょうの誕生花
誕生日検索
きょうの誕生日

トップへ