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2012年 8月13日の新作昔話

毒キノコと大根おろし

毒キノコと大根おろし
秋田県の民話

 むかしむかし、あるお寺に、二人の小僧さんがいました。
 ある、とても天気が良い日の事、小僧さんは和尚さんのところへ行って、
「和尚さま、仏さまにお供えする花を取りに行かせてください」
と、頼みました。
 仏さまのお花と言われては、断るわけにはいきません。
「よしよし、それはよい心がけじゃ。しかし、野原には花に姿を変えた化け物がいると言うぞ。よく気をつけて、日がくれないうちに戻って来なさい。そしてもし道に迷ったら、このお札を投げて、『道を教えてくれ』と言いなさい」
 和尚さんは二人の小僧さんに、ありがたいお札を一枚ずつわたしました。
 こうして二人の小僧は大喜びで山へ行き、仏さまに供える花を探しました。
 でも、なかなか花は見つかりません。
 夢中で探しているうちに、二人は別々になってしまいました。
 やがて一人の小僧が、花のたくさん咲いている場所を見つけました。
「これはすごい!」
 小僧は夢中で花をつみ、かごはたちまち花で一杯になりました。
 その時始めて、もう一人の小僧がいない事に気づいたのです。
「おや? あいつ、どこへ行ったのかな? もう、帰ってしまったんだろうか?」
 小僧は近くを探しましたが、もう一人の小僧が見つからないので、そのままお寺に帰っていきました。
  さて、もう一人の小僧ですが、お寺に帰ったのではなく、別の場所でやっと一本の花を見つけたのです。
 ところが不思議な事に、その花は小僧が取ろうとすると、すーと動いて、逃げてしまうのです。
「あれ? おかしな花だな。まるで生きているみたいだ」
 小僧はその花を、必死になって追いかけました。
 そして気がつくと、そこは谷間で、もうあたりは暗くなりかけていました。
「大変だ。日が暮れる前に、早く戻らないと」
 小僧が戻ろうとすると、どこからか誰かのこんな話し声が聞こえてきました。
「あの寺にはごちそうがいっぱいだ。和尚を殺せば、何でも食い放題だ」
「それでは、お供えの花に化けて行くか? それとも、このままキノコの姿で行くか?」
「キノコで行こう。あの和尚は、キノコが大好物だからな」
「しかし、大根おろしをかけられたら命がお終いだから、気をつけないとな」
 それを聞いた小僧がびっくりして声のする方を見ると、なんと毒キノコが話し合っていたのです。
(大変だ! 早く和尚さんに知らせないと)
 小僧はあわてて、お札を取り出すと、
「お寺への道を教えてくれ!」
と、投げました。
 すると、お札は小僧を案内する様に、ヒラヒラと飛んでいきます。
 その後をついていくと、小僧は無事にお寺へ戻る事が出来ました。
 そして小僧は和尚さんに、さっそく毒キノコが言っていた話を教えました。
 それを聞いた和尚さんは、
「なるほど。いい事を教えてくれた」
と、和尚さんは小僧に礼を言うと、注意深く庭を見ていました。
 すると庭のすみに、突然大きなキノコが生えてきたのです。
(ははーん。これが毒キノコじゃな)
 そこで和尚さんは小僧に大根おろしをたくさん作らせると、それをキノコにかけました。
 するとキノコは苦しそうに暴れて、やがてタヌキの姿を現したのです。
 キノコは、タヌキが化けていたのでした。
 それからこの地方では、キノコを食べるときは大根おろしをかけてから食べるようになったそうです。

おしまい

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