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2012年 9月7日の新作昔話

おだてて鼻が高くなる

おだてて鼻が高くなる
東京都の民話

 むかし、江戸のある大店に、跡取り息子が生まれました。
 主人の万右衛門(まんえもん)は大喜びでしたが、ひとつだけ、気にいらないことがありました。
 それは、赤ん坊の万吉(まんきち)の鼻が、とても低かったのです。
 その低さは、顔の上に碁石を一つ置いたぐらいです。
 朝に晩に乳母に鼻をつまませたり、鼻を洗濯ばさみではさませたりしましたが、いっこうに効き目がありません。
 ある日、主人とおかみさんはこんな相談をしました。
「大工に頼んで、鼻の中に柱をたててもらうか」
「それより、鼻のたかい天狗に願掛けをしたらどうかねえ、お前さん」
「そいつはいい。さっそく百度参りをしよう」
 そこで夫婦は、お参りをする事にしました。
 するとさっそく、天から天狗の声が聞こえてきます。
「高慢(こうまん)になれば、鼻もたかくなる」
「高慢って、どうすりゃ、高慢になるんで?」
「簡単なこと。『お前はかわいい。お前はかしこい。お前はえらい』と、おだててやれば、すぐ天狗に、いや、鼻も高くなるわ」
「なるほど」
 そこで、店の人はもちろんの事、お客にまで万吉をほめてくれる様にと頼んだのです。
「万吉は、えらいねえ」
「万吉は、かわいいねえ」
「万吉は、かしこいねえ
 すると不思議な事に、万吉の鼻が少しふくらんだのです。
 やがて万吉が五歳になると、相撲取りに頼んで、相撲の相手をしてもらいました。
 相撲取りは、わざと負けるとお金がもらえるので、よろこんで負けてやりました。
 すると万吉は、
「えへへ。おいらは力持ちだ。天下のお相撲さんをぶんなげたのだからね」
 八歳になると、絵の先生がよばれて、万吉は絵を習いました。
 先生は、万吉の絵をほめちぎります。
「いやー、お坊ちゃまは、すじがよろしい。この筆の線はどうだ。力がみなぎっておる。ほら、このネコはまるで、生きているようです」
「ネコじゃない。トラだよ」
「そう。いかにもトラ、トラですよ。加藤清正がお坊ちゃまのトラをみたら、ブルブルと震え上がるでしょう」
 十四歳の時、漢文の先生がやってきました。
 だれもかれも万吉をほめるので、ついに万吉の鼻は天狗のように高くなったのです。
 ところである日、天狗の親分が万吉のうわさを聞きました。
「万吉は、鼻が高すぎる」
「それに万吉は、高慢すぎる」
 などです。
「万吉? はて、聞いた名だ。・・・うんそうだ。鼻を高くしてほしいと頼まれた事があったな。あれがたしか万吉だった。さてはおだてにのって、高慢になりすぎたか。よし、ひとつこらしめてやるか」
 天狗はそこで万吉を連れ出して、小天狗と相撲をとらせました。
 小天狗は手加減をしないので、万吉は簡単に投げ飛ばされてしまいました。
 そして万吉は地面に鼻をこすりつけ、すりむいて少し縮んだのです。
「万吉、お前、絵がうまいそうだな」
「ああ、おら天才だ。筆と紙をよこせ」
 さらさらさら。
 出来上がった万吉の絵を見て、小天狗は吹き出しました。
「わっはっはっは、なんだこれは! これはネコか?」
「馬鹿を言うな。お前の目はふし穴か。これはトラだ」
「うひゃゃゃゃゃゃ。これがトラ? うひゃゃゃゃゃゃ」
 小天狗に大笑いされた万吉の鼻は、また小さくなりました。
「ようし、そんなら学問だ」
 万吉は自信ありげにいいましたが、小天狗の出す簡単な質問にも、万吉は答えられません。
 すると万吉の鼻はみるみる低くなり、とうとう、元の鼻ぺちゃになったという事です。

おしまい

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