2012年 10月8日の新作昔話
くわが盗まれた
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むかしむかし、仲の良い兄弟のお百姓さんが、二人で畑を耕していました。
やがてお昼になり、兄さんは先に帰って食事の用意を始めました。
そして用意が出来たので、弟に大きな声で、
「おーい! 帰ってこ〜い!」
と、呼ぶと、弟が遠くから大きな声で返事をしました。
「わかったー! くわを隠してから、帰るよー!」
さて、二人がテーブルにつくと、兄さんが弟に言いました。
「弟よ、物を隠す時には、あんなに大きな声で言うものじゃない。盗まれたらどうする? 大声は、よく考えてから使うんだ」
兄さんに注意されて、弟はなるほどと思いました。
(よし、これからは注意をしよう)
さて、食事がすんで弟が畑へ行ってみると、ちょうど誰かが、隠して置いたくわを盗もうとしているところでした。
弟はすぐに大声を出そうと思いましたが、はっと、兄さんから聞いた注意を思い出して、小さな声で言いました。
「兄さん、くわが盗まれようとしているよ」
しかし、そんな小さな声では遠くにいる兄さんには聞こえないので、弟は仕方なく急いで家に帰ると、兄さんの耳に口をよせて、そっとささやきました。
「兄さん、くわが盗まれてしまったよ」
大きな声と小さな声は、時と場合で使い分けましょう。
おしまい