きょうの新作昔話
童話集 > 新作

2012年 11月16日の新作昔話

タンスの中の田んぼ

タンスの中の田んぼ
山梨県の民話

 むかしむかし、炭焼きを仕事にしている二人の若者が、炭を焼くために炭焼き小屋へ行ったのですが、どこでどう道を間違えたのか、行けども行けども炭焼き小屋へはたどり着けません。
 そしてとうとう、今まで一度も入った事がない山奥へと、迷い込んでしまったのです。
 帰る方向もわからず二人が困っていると、ふと木の向こうに、一軒の家がある事に気づきました。
 こんな山奥に家が一軒だけあるのはおかしいのですが、二人は助かった気持ちから、そんな事は考えずに、我先にとその家に駆け寄ると家の戸を叩きました。
 すると家の中から、美しい娘が出てきたのです。
「すみません。おれたち、この山で炭焼きをしている者ですが、道に迷って困っています。どうか今夜一晩、泊めてもらえないだろうか?」
 すると娘は、にっこり笑っていいました。
「それはお困りでしょう。ここにはお餅しか食べ物がありませんが、それでよかったら、どうぞ泊まってください」
 こうして二人は家の中へ入れてもらい、山のように出された餅をごちそうになりました。
 しばらくすると、娘が言いました。
「あの、私は用事があって、今から出掛けてきます。すみませんが、お二人で留守番をしていて頂けませんか? ついては、家の中の何を見てもかまいませんが、このタンスの引出しだけは決して開けて見ないで下さいね」
 そして娘は、出掛けて行きました。
 残った二人は、初めのうちは言われた通りに留守番をしていたのですが、いつまでたっても娘が帰って来ないので退屈になり、
「おい、あのタンスだけど、何か気にならんか?」
「ああ、確かに。だが、決して開けるなと言っていたからな」
「それはそうだが、だからそこ、気になるのじゃ」
「だが、約束したしな」
「なあ、ちょっとだけ、覗いてみないか?」
「うーん」
「大丈夫。ちょっとだけだから」
「・・・そうだな」
と、二人はそのタンスに手をかけると、一番下の引出しを開けてみました。
 すると不思議な事に、その中は広い広い田んぼになっていて、まだ植えたばかりの稲の苗が青々としていたのです。
 二人はびっくりしながらも、次に下から二番目の引き出しを開けてみました。
 するとその引き出しには、稲が伸びた田んぼが広がっていたのです。
 二人は次に、下から三番目の引き出しを開けてみました。
 するとその引き出しには、よく実った黄金色の稲が重くたれており、風が吹くたびにざわざわと揺れていました。
 そして一番上の引き出しは二つに分かれていたので、先に左側を開けてみると、中にはびっしりと米俵が入れられており、右側の引き出しにはその米で作ったのか、さっき食べた物と同じ餅がたくさん入っていました。
 引き出しを閉めた二人が、これらの不思議に光景に呆然としていると、間もなく娘が帰ってきて、二人に悲しそうな顔を向けました。
「わたしがあれほど止めて下さいとお願いしたのに、あなたたちは、タンスの引き出しを開けてしまったのですね。せっかく、あなたたちのどちらかを、わたしの婿に迎えようと思っていたのに」
 娘はそう言うと、再びどこかへ行ってしまいました。
 翌朝になり、家を出た二人が少し歩くと、そこは二人が目指していた炭焼き小屋でした。
「なんだ。こんな近くにあったのか」
 それからのち、二人はあの娘に謝ろうと、炭焼き小屋に行くたびに娘の家を探したのですが、どんなに探しても、二人はあの家もあの美しい娘も見つける事は出来なかったそうです。

おしまい

きょうの「366日への旅」
記念日検索
きょうは何の日?
誕生花検索
きょうの誕生花
誕生日検索
きょうの誕生日

トップへ