2012年 11月26日の新作昔話
牛になった小僧
山形県の民話
むかしむかし、あるところに、とても貧乏なおじいさんとおばあさんが暮らしていました。
ある雪の夜、家の戸を叩く者がいたので、おじいさんが戸を開けてみると、家の外には雪まみれの小僧さんがいました。
小僧さんはペコリと頭を下げると、おじいさんに言いました。
「旅をしているのですが、この雪で困っております。どうぞ一晩だけ泊めでください」
そこで気の良いおじいさんは、
「それはそれは、お困りでしょう。見た通りの貧乏家で何もありませんが、どうぞ家にあがってください」
と、小僧さんを囲炉裏の前に座らせると、熱いお湯を出しました。
すると小僧さんはよほど疲れていたのか、お湯を一口飲むと、そのまま寝てしまいました。
それを見たおばあさんが、
「あれ、小僧さま、口に物を入れてすぐに寝ると、牛になってしまうぞ」
と、言っている間に、小僧は一匹の可愛い黒い牛になってしまったのです。
おじいさんとおばあさんはびっくりしましたが、二人にはどうするとこも出来ず、そのままその牛を家で飼うことにしたのです。
すると、この牛がとてもよく働く牛で、おじいさんとおばあさんの暮らしはたちまちよくなりました。
そしてこの事を、隣に住む欲深いおばあさんが知ったのです。
「わしも小僧を牛にして、暮らしを楽にしよう」
そしておばあさんは、家の前を小僧さんが通りかかるのを毎日毎日待っていました。
そんなある日、おばあさんの家の前を小僧さんが通りかかったのです。
おばあさんはその小僧さんを強引に家へ連れてくると、無理矢理にごちそうを食べさせました。
そして食べ終わると、小僧さんに早く寝るように言ったのです。
でも小僧さんは、
「いいえ、食ってすぐに寝ると牛になると言いますので、寝ることは出来ません」
と、言うのです。
しかし、欲深いおばあさんは、
「そんな事、うそに決まっている。なんなら、わたしが先に寝てみせるから、小僧さまも後で寝てくだされ」
と、言って、その場にゴロンと寝ころびました。
するとおばあさんは、たちまち牛になってしまったのです。
その後、牛になったおばあさんは、一生、小僧さんを背中に乗せて旅をすることになったのでした。
おしまい