きょうの新作昔話
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2012年 11月30日の新作昔話

長居のお客さん

長居のお客さん
新潟県の民話

 むかしむかし、一人の画家が若い弟子をお供に、雪の降る北の国を旅していました。
 ものすごい大雪なので、
「このあたりは、どのくらい雪がつもっておるのですか?」
と、村の人にたずねると、
「そうですなあ、ざっと、二十メートルほどでしょうか」
と、いうので、画家はおどろいて、
「それはすごい。して、どうやって、はかったのですか?」
と、さらにたずねると、
「ああ、いつも見あげている高い大木のてっぺんが、ほら、草のように雪から出ているのが見えるでしょう。それでわかるのです」
と、いうのでした。
 たしかに一面の雪野原に、小さな草のようなものがいくつも見えます。
 これほどの雪なら、家が丸ごとうまってしまうという話も本当だと、画家は思いました。
 画家は村人に、宿屋があるところを聞きました。
 そしてしばらく歩いて、雪が降り積もった高い崖の上から、下に見える家に向かって大声で、
「すみませーん! 今晩一晩、泊めていただけますかー!」
と、声をかけると、崖の下の家から、
「はーい! このような雪の中ですから、満足な食べ物はありませんが、それでよろしかったら、どうぞいらしてくださーい!」
と、親切な返事が返ってきました。
 画家が、その宿に入っていろりの火にあたっていると、土間のすみに鳥かごがあり、四羽ほどの鳥が中にいるのが見えました。
「満足な食べ物はないといっておったが、今夜はあの鳥のなべが食べられるのだな。おいしそうだ」
 そう思いながらたずねてみると、宿屋の主人は、
「あれは、食べるものではありません」
と、言うのです。
「あの鳥たちは、季節の移りかわりをよく知っておりますが、南の国で春が早く終わった年は、時季を間違えて、こちらがまだ寒い冬なのに飛んできてしまうのです。
 ですが、ごらんの通りの一面の雪では、エサがありません。
 それでエサをもらおうと、人家の近くへやってくるのです。
 日頃は人間を恐れていますが、この時は別です。
 あの鳥たちも、十日ほど前に雪嵐の中をやってきました。
 となりの家にも、その先の家にも、三、四羽落ちました。
 私たちに、救いを求めてきたのです。
 そしてどこの家でも、助けた鳥をかごに入れて、エサをやっているのです。
 あの鳥たちは、あたたかくなってエサが取れる様になるまでの、長居のお客さんです。
 春になったら、放してやるのです」
 宿屋の主人の話を聞いて、画家は自分の早とちりを恥じました。
 そして、
「心があたたかくなる、いい話を聞いたものだ」
と、喜んだという事です。

おしまい

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