2012年 12月7日の新作昔話
カメの恩返し
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むかしむかし、ある山奥の村に、ボク・シュリイという、気立ての良い親孝行な娘がいました。
母親は早くに死んでしまったので、貧しいお百姓の父親と二人で暮らしていました。
ある日の事、シュリイが食事の支度をしていると、突然大きなカメが現れました。
「娘さん、どうか食べ物をめぐんでください」
「まあ、ひどくお腹が空いているようね。ちょっと待っていてね」
シュリイは、お米を一握りつかむと、カメに食べさせてやりました。
その日からカメは、台所に住み着くことになり、シュリイがやさしくめんどうをみたので、カメはますます大きくなりました。
それから何年か過ぎたある日、シュリイの父親が病気になりました。
シュリイが一生懸命に看病をしても、お父さんの病気は少しもよくなりません。
そこでシュリイは、隣村に住んでいる医者にお父さんの病気を診てもらいました。
「どうぞ、父を助けてください」
すると、医者が言いました。
「この病気に効く薬はあるが、しかし、その薬はとても高いんだよ」
「あの、おいくらでしょうか?」
金額を聞いたシュリイは、涙を流して悲しみました。
住んでいる家も着ている服も、何もかも全部売っても、その半分にもならないからです。
さてその頃、近くの村には、怪物の住む家がありました。
村では毎年、怪物に人間を一人いけにえに捧げていました。
いけにえに捧げないと、村に災難が起きると言い伝えられているからです。
そして、いけにえになる人には、たくさんのお金がもらえる事を知ったシュリイは、心を決めました。
「次のいけにえには、わたしがなるわ。そうすればもらえるお金で、お父さんに、薬を買ってあげられるもの」
さっそくその村へ出かけたシュリイは、自分がいけにえになる事を申し出ました。
そして、たくさんのお金をもらったシュリイは、帰りに医者の所へ行って薬を買いました。
うれしい事に薬を飲んだ父親はすぐに元気になり、やがて畑仕事も出来るほどになったのです。
「お父さん、よかったわね」
でもシュリイは、喜んでばかりはいられません。
ついに、シュリイがいけにえになる日が来たです。
シュリイは、いつものように家の中を片付けると父親に言いました。
「お父さん。わたし、ちょっと出かけます」
シュリイの様子がいつもと違うことに気づいた父親は、シュリイに尋ねました。
「どこへ行くのだい? 明日では駄目なのかい?」
「はい。どうしても、今日行かないと行けないのです」
「そうか。では、早く帰っておいで」
「・・・はい、お父さん」
シュリイは涙を隠すと、台所へ行ってカメに言いました。
「カメさん。もう、わたしはあなたの世話が出来ないの。元気で暮らしてね」
それから怪物のいる家に行ったシュリイは、待っていた村人たちに祭壇の前に座らされると、その部屋の戸を固く閉められました。
「わたし、どうなるのかしら?」
シュリイが恐ろしさに震えていると、何かが部屋のすみで動きました。
「あっ、カメさん。カメさんじゃないの」
いつの間についてきたのか、シュリイの可愛がっていたカメがいたのです。
カメは鋭い目で天井を見上げると、口から天井へ黄色い息をシュッと吹きかけました。
すると天井から、青い息がシュッと下りてきました。
黄色い息と青い息が、もの凄い勢いで闘っているのが、シュリイにもわかりました。
「カメさん、がんばって!」
やがてカメの黄色い息が青い息を押し返すと、黄色い息が天井を打ち破りました。
その瞬間、
ドドドドーン!
と、天井裏から、大きな大きなカニが、落ちてきたのです。
この村の化け物の正体は、この大きな大きなカニだったのです。
やがて、この騒ぎを聞きつけた村人たちが、恐る恐る家の中に入ってきました。
すると部屋の中には、仰向けにひっくり返って死んだ化け物ガニと、戦って死んだカニが横たわっていたのです。
「ややっ、これは、どうした事だ」
村人がシュリイを抱き起こすと、気を失っていたシュリイが目を覚ましました。
そしてシュリイから事情を聞いた村人たちは、化け物ガニと戦って死んだカメを手厚く葬ったという事です。
おしまい