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2012年 12月10日の新作昔話

ジャックと馬とニシンの王さま

ジャックと馬とニシンの王さま
ジプシー童話

 むかしむかし、あるところに、年取った夫婦が住んでいました。
 二人には子どもがいません。
 年寄りなので、これからも生まれないだろうとあきらめていたのですが、どうしたわけか、この年寄り夫婦に男の子が生まれたのです。
「ついに私たちにも、子どもが出来たぞ!」
 夫婦は大変喜んだのですが、しかしまもなく父親が死んでしまい、一人息子のジャックは、母親を助けて働かなければならなくなりました。
 ある日の事、一人のおじいさんが、ジャックの家のそばを通りかかっていいました。
「どうだね。これからわしと一緒に、仕事を探しに行かないか?」
 ジャックは、すぐに答えました。
「はい、行きましょう」
「そうか、それならわしに、『老馬になれ』と、言いなさい」
 おじいさんがそう言うので、ジャックは言われた通り、
「老馬になれ」
と、言うと、おじいさんは、たちまち年取った老馬になりました。
 そして老馬は、ジャックに言いました。
「さあ、わしの背に乗りなさい。出かけるとしよう」
 馬はジャックを乗せると、こう言いました。
「途中で何か困っている者を見かけたら、そばへいって様子を見なさい。そして、もしお前さんに出来る事があったら、何でもしてあげなさい」
「はい、わかりました」
 そして二人は道を進み、やがて丘へのぼる坂道にやってきました。
 すると、ジャックが、
「何か、聞こえるようです」
と、馬に言いました。
「なら、行って見ておいで」
「はい、わかりました」
 ジャックは馬からおりて、音のする方へ行きました。
 するとそこは海で、波にうちあげられた小さなニシンが、ピシャピシャとはねていました。
 ジャックはニシンを助けて、水の中に放してやりました。
 するとニシンは、ジャックのところへ泳ぎ寄って来て言いました。
「助けていただいて、本当にありがとうございます。実は、わたしはニシンの王さまです。もしわたしに出来る事があったら、いつでも呼んでください。きっとお役に立ちますから」
「そうかい。それなら、その時は頼むよ。じゃあ」
 それからジャックと馬は丘に向かって、進んで行きました。
 そして丘の上に来ると、馬がジャックに言いました。
「ジャック、お前さんの目にした物は、どんなに立派な物でも、決してさわってはいけないよ」
「はい、わかりました」
 ジャックが答えたとたん、さっと風が吹いてきて、ジャックの口の中に一枚の羽根が飛び込んできました。
 ジャックは急いでそれを吐き出しましたが、風がまた吹いてきて、羽根がジャックの口の中に飛び込んできました。
 そんな事が何度も繰り返されたので、ジャックは吐き捨てるのをやめて、飛び込んできた羽根を手に取ってみました。
「わあ、とてもきれいな羽根だ。捨てるのはやめて、持っていこう」
 ジャックはその羽根を、ポケットに入れました。
 そのうち、ジャックと馬は、古い城があるところへやってきました。
 すると城の中から、大きな叫び声が聞こえてきたのです。
「ジャック、何が起こっているのか、見ておいで」
「はい、わかりました」
 ジャックは城に行って門を叩きましたが、誰も出てきません。
 そこでジャックは、勝手に門を開けて城の中に入ってみました。
 すると一人の大男が、ぐったりとベッドに横たわっていたのです。
「あの、どうなさいました?」
「ああ、わしはいま、病気なのだが、ここにはだれも世話をしてくれる者がいないんだ。すまないが下へ行って、食べ物と酒を持ってきてくれないか」
 ジャックは言われた通り、下から食べ物とお酒を持ってきました。
 大男はそれを食べ終えると、ジャックにいいました。
「ありがとう。おかげで助かったよ。もし、わたしで役に立つ事があったら、いつでも呼んでくれ。きっと力になってあげるから」
 こうして大男を助けたジャックは城を出て、馬と一緒に丘を降りていきました。
 歩きながら、馬が言いました。
「丘の上では、何か見たかね?」
「はい、病気の大男を助けました。それから、風がわたしの口の中に一枚の小さな羽根を吹き込みました。その他には、何もありませんでした」
「それで、その羽根はどうしたかね?」
「きれいだったので、ポケットの中に入れました」
「それはいけないよ。その羽根は、わしらに何か不幸を招き寄せるかもしれない。でも、いまさら仕方がない、その羽根はそのまましまっておきなさい」
 さて、ジャックは仕事をもらうために、大きな屋敷に行きました。
 屋敷の主人に会ったジャックは、そこで美しい羽根を見せました。
 やがてジャックは、寝る為に外へ出ました。
 屋敷の主人は、ジャックに家の中で寝るようにと言いましたが、
「いいえ、わたしは馬屋で、年取った馬と一緒に休みます」
と、いって、ジャックは主人の申し出を断ったのです。
 さて、それからしばらくして、屋敷の下男の一人が主人に言いました。
「だんなさま、あの若者をもう一度ここにお呼びください。何とかして、若者から美しい羽根を手に入れましょう」
「そうだな、あの羽根は、きっと価値があるものに違いないからな」
 そこで主人は、ジャックを屋敷の中に呼びました。
 その隙に下男は、うまくジャックの羽根を奪うと、別の羽根をテーブルの上に置きました。
「だんなさま、羽根を奪いました。ところで羽根を持ってきた若者は、きっと、この美しい羽根を持つ鳥も、連れて来る事が出来るにちがいありませんよ」
「そうだな、一枚の羽根より、その羽根を持つ鳥の方が、価値があるに違いないからな」
 そこで主人は、ジャックを呼んで言いました。
「お前は仕事を探していると言ったな。それでは、ひとつやってもらいたい事がある。それは、お前の持っている美しい羽根と同じ羽根の鳥を探して来ることだ」
「しかし、わたしは羽根の鳥を見たことが」
「頼んだぞ」
「・・・はい」
 ジャックは馬のところへきて、相談しました。
「屋敷の主人が、鳥を欲しがっているのですが」
「ではジャックよ、ご主人のところへ行って、三日間待ってもらうように頼みなさい。そして、お金の入った財布を三つもらっておいで」
 ジャックは言われた通りにしてから、馬と二人で鳥を探しに出かけました。
 しばらく歩いていくと、立派な城の前に出ました。
「ジャックよ、お城へ行って中にお入り。大勢の人が酒盛りをしているが、それにかまってはいけないよ。部屋のすみの鳥かごに尾の長い鳥が入っているはずだから、それを持っておいで」
 ジャックは言われた通り、お城へ行き、部屋の中にあった烏かごを持って、馬のところへ戻ってきました。
 そして二人は、鳥を持って屋敷に帰りました。
 主人が鳥を受け取ると、また下男が言いました。
「だんなさま、この鳥はとてもきれいです。しかし、この鳥よりももっと美しい女の人がいるはずです。この鳥を持ってきた若者は、その女の人もきっと連れて来る事が出来るはず」
 そこで主人は、ジャックを呼んで、
「ジャックよ。今度は美しい女の人を連れて来て欲しい」
と、言いました。
 ジャックが馬に、その事を相談すると、馬が言いました。
「ジャックよ、わしの言いつけを守らないであの羽根をポケットに入れたので、とうとうわしが心配した事が起こってしまったようだ。・・・だが、いまさら仕方がない。さあ、またこの前の様に、ご主人のところに行って、三日間待ってもらうようお願いして、お金の入った三つの財布をもらっておいで」
 ジャックは主人のところへ行き、お金と三日の日数をもらってきました。
 二人が屋敷を出るとまもなく、馬がジャックに言いました。
「ジャックよ、わしが船にかわるように、『老馬よ、船になれ』と、お願いしなさい」
「はい。老馬よ、船になれ」
 ジャックの言葉が終わると同時に、海に一隻の船が現れました。
 ジャックが船に乗り込むと、船には絹が積んでありました。
 そして船がお城の下にやってきたとき、船がいいました。
「ジャックよ、お前はお城に行って、貴婦人に会いなさい。はじめに出てくる女の人は、お前の会う貴婦人ではないから、その出てきた女の人に、『貴婦人に面会したい』と頼みなさい」
「はい、わかりました」
 ジャックはお城へ行き、門を叩きました。
 すると、一人の女の人が出てきたので、ジャックは女の人に、貴婦人に会わせてくれるように頼みました。
 するとまもなく、貴婦人が出てきました。
 ジャックは絹を積んだ船が、城の下にとまっている事を話しました。
「まあ、絹があるのですか」
 絹が何よりも好きな貴婦人は、絹を見るため船のところにやってきました。
 そこで乗組員の一人が、貴婦人を絹のしまってある船室に案内しました。
 そのすきにジャックはイカリをあげて、船を走らせました。
 船がはるか遠くの沖に出た頃、貴婦人が甲板にあがってきました。
 そこではじめて、自分がだまされて船に乗せられた事を知り、顔をまっ赤にして怒りました。
 そして貴婦人はポケットをさぐってなにかを取り出すと、それを海中に投げ入れました。
 すると、海の水は血のように赤くなり、はげしい嵐がおこったのです。
 けれどもジャックたちは、このはげしい嵐を何とか乗り越え、無事に屋敷へもどりました。
 そして、連れてきた貴婦人を主人のところへ案内しました。
 するとまた、下男が主人にいいました。
「貴婦人をつれてきた若者は、貴婦人の住んでいたお城も、持ってくる事が出来るにちがいありません」
 そこで主人はジャックをよんで、
「ジャックよ、今度は貴婦人の住んでいた城を持ってきてほしい」
と、いいつけました。
 ジャックは馬のところへいって、その事を話しました。
「そうか、ではジャック、ご主人にお金の入った三つのさいふと三日の日数ともらっておいで」
 ジャックは屋敷に戻ると、主人にそれらの物をもらってきました。
 さて、二人が旅に出て、かなりの道を歩いたころ、馬がジャックにいいました。
「いつか、食事の世話をした病気の大男は、お前さんに何といったかね?」
「はい。わたしで役に立つ事があったら、どんな事でもするといいました」
「では大男のところへ行って、主人に言われた事をしてもらいなさい」
 ジャックはお城へいって大男に会い、主人に言われた事を話しました。
 大男はそれを聞くと、声を出して笑いました。
 そしてジャックに、くさりを取ってくるように言いました。
 しかし、くさりは重くて、ジャックには、くさりの一つの輪さえ持ちあげる事が出来ません。
 それを見ると大男はまた笑い出し、自分で取りに行ってくさりを持ちあげ、肩にかつぎました。
 大男とジャックは、貴婦人の住んでいたお城にきました。
 大男はくさりでお城をしばると、それをかついで貴婦人の連れてこられた屋敷まで運びました。
 しかし、お城のまわりは高いへいでかこまれおり、門にはかぎがかかっていました。
 かぎがなければ、中に入る事もできません。
 そこでジャックは貴婦人のところへいって、かぎをくれるようにたのみました。
 すると、貴婦人が言いました。
「かぎは連れてこられる時、海の中に投げすてましたわ」
 ジャックはまた、馬のところに相談にいきました。
「ジャック、ご主人のところへ行って、いつもの物をもらっておいで」
 ジャックは主人のところへいって、馬に言われた物をもらってきました。
 それからジャックと馬は、また旅をする事になりました。
 屋敷を出るとまもなく、馬がジャックにいいました。
「ジャックよ、助けてやったいつかのニシンは、お前さんに何といったのかね」
「はい。わたしはあなたのために、出来る事は何でもします。もしわたしでお役に立つ事がありましたら、いつでもニシンの王さまといって、わたしをよんでくださいといいました」
「では、ニシンに頼もう」
 ジャックと馬は、いつか小さなニシンを見つけたところにいき、ニシンをよびました。
 するといつかのニシンが、ジャックのところへ泳いできました。
 ジャックはニシンに、貴婦人が海の中に投げ入れたかぎの事を話しました。
「ではジャックさん、わたしがそのかぎを探してきましょう」
 そういうとニシンは姿を消して、しばらくすると口にカギをくわえて帰ってきました。
 ニシンはジャックにかぎをわたすと、そのままどこかに泳ぎさってしまいました。
 ジャックと馬はニシンが探してきたかぎを持って、屋敷に帰りました。
 ジャックは持ち帰ったかぎで門を開ける事ができました。
 そこへ貴婦人がやってきて、ジャックにいいました。
「わたしをだまして連れてくるなんて、ずいぶんひどい人ね。そこでジャック、あなたは、あなたの首と、ここのご主人と下男の首のうち、どれをはねられる事をのぞみますか?」
 ジャックは少し迷いましたが、決心すると貴婦人に言いました。
「命令したのはご主人たちですが、あなたをだまして連れてきたのはわたしです。わたしの首をはねてください」
 それを聞いた貴婦人は、ニッコリ笑いました。
「ジャック、あなたの答えは、とても立派です。もし、その反対の答えをしていたら、わたしはあなたの首をはねていたでしょう。罰を受けるのは、あなたに命令した、ここの主人と下男です」
 屋敷の主人と下男は牢屋に入れられ、ジャックと貴婦人は結婚しました。
 貴婦人とジャックは、いまでも大男の持ってきたお城に住んでいるのです。

おしまい

きょうの「366日への旅」
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