2013年 4月26日の新作昔話
長い話で、長者婿
山形県の民話
むかしむかし、ある長者の家に、とても可愛い一人娘がいました。
その娘は、むかし話を聞くのが大好きです。
そこで長者はむかし話をたくさん知っている若者を婿に迎えようと思い、こんな立て札を立てました。
《娘が聞き飽きるほど昔話を語った者を、娘の婿にする》
するとさっそく一人の若者が長者の家を訪ねてきて、こう言うのです。
「むかし話なら、おれに任せて下さい。いくらでも語ることが出来ます」
そこで試しにむかし話を語ってもらったのですが、長者の娘はいくらむかし話を聞いても、
「もっと聞かせて。もっと聞かせて。もっと、もっと」
と、何度も何度もむかし話のおねだりをするのです。
若者は知っているむかし話を全部語り終えると、
「おれの負けです。これ以上は、むかし話を語ることは出来ません」
と、尻尾を巻いて帰って行きました。
それから数日後、また若者が訪ねてきました。
「おれは、むかし話を飽きるほど語ることが出来るぞ」
そこで今度も、むかし話を語ってもらったのですが、これもまた、いくら語っても語っても娘は次の話をおねだりするのです。
「もっと聞かせて。もっと聞かせて。もっと、もっと」
そこで全てのむかし話を語り終えた若者は、これもまた尻尾を巻いて帰って行きました。
そしてそれから数日後、またまた別の若者が訪ねてきました。
「わたしは、いくらでもむかし話を語ることが出来ます。ですから、婿にして下さい」
そこでその若者にもむかし話を語ってもらうことにしたのですが、そのむかし話というのが、こんなお話しなのです。
「むかしむかし、ある大きな木の根っこに蛇の穴があって、そこから長い長い長いヘビが出てきたのです。
あまりにもヘビが長いので、ぜんぜん尻尾が見えません。
のろのろのろのろのろのろ出てきますが、今日は尻尾が見えません。
明日も、のろのろのろのろのろのろ出てきますが、尻尾が見えません。
明後日も、のろのろのろのろのろのろ出てきますが、尻尾が見えません。
その次も、のろのろのろのろのろのろ出てきますが、尻尾が見えません。
その次も、のろのろのろのろのろのろ出てきますが、尻尾が見えません。
その次も、のろのろのろのろのろのろ出てきますが、尻尾が見えません。
その次も、のろのろのろのろのろのろ出てきますが、尻尾が見えません。
その次も、のろのろのろのろのろのろ出てきますが、尻尾が見えません。
その次も、・・・」
と、ずっとその話を繰り返すのです。
あんまり『のろのろ』が続くので、ついに娘もむかし話に飽きてしまい、ぐーぐーと寝てしまったのです。
それを見た長者は若者の知恵を大変気に入り、喜んで婿に迎えたという事です。
おしまい
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