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夏の怖い話し特集
2013年 7月8日の新作昔話

ひとつ目の鬼女

一つ目の鬼女

 むかしむかし、ある田舎に侍屋敷がありました。

 月の明るい晩の事、酒盛りをしていた家来たちに、主人がこんな事を言いました。
「お前たち、普段は強そうな事を口にしているが、今から一人で裏山の社(やしろ)へ行く勇気はあるか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 おしゃべりをしていた家来たちは、急にだまってしまいました。
 なぜなら裏山の社には、恐ろしい化け物が出るとのうわさがあるからです。
 でもしばらくすると、腕に自信のある男が立ち上がりました。
「わたしがいこう」
「よし、よく言った。社へ行った証拠に、これを置いてまいれ」
 主人は木札に男の名前を書くと、男に渡しました。

 さて、男は一人で裏山をのぼって行くと、何事もなく社に証拠の木ふだを置きました。
「何だ、何も出てこないじゃないか。ひょうしぬけだな」
 男がそう言ったとたん、どこからともなく白いかぶりものをした女の人が現れました。
(こんな時間に女がいるとは変だ。・・さては、こいつがうわさの化け物だな)
 男は女の人に走り寄ると、女の人がかぶっていた白いかぶりものをひきはがしました。
「あっ!」
 そこに現れたのは一つ目の鬼女で、頭からは二本の角が生えています。
 鬼女がお歯黒をつけた黒い歯をむき出しにして、ニヤリと笑いました。
「おのれ化け物! 覚悟しろ!」
 男はひるむことなく、刀を抜きはなって切りかかりました。
 すると鬼女は、ふっと煙の様に消えてしまいました。
「しまった。逃したか。・・・しかし、この事を話しても誰も信じてはくれまい」

 しばらくして屋敷に戻った男は、主人に報告をしました。
「社に行きましたが、何事もありませんでした」
 するとそのとたん、急に雷がとどろいたかとおもうと、ザーザーと激しい雨になりました。
 そして空から、鬼女の声がひびいてきたのです。
「何事もないとはどういう事だ? 先ほどの事をありのままに言わんと、ためにならんぞ!」
 男は仕方なく、社での出来事を主人に打ち明けました。
 しかし雨は止むどころか、ますます激しくなってきました。
 そしてついには、
 ドーーン!
と、屋敷の庭に雷が落ちました。
「どうやら、化け物を怒らせてしまったようだ。化け物の怒りがおさまるまで、ここに隠れておれ」
 主人は鍵のついた長持(ながもち→衣服などを入れる箱)を用意すると、男を隠して何人もの見張りをつけました。

 激しい雨と雷は一晩中続きましたが、やがて夜が明けるとおさまってきました。
「やれやれ。化け物の怒りも、ようやくおさまったようだな」
 主人は長持の鍵を開けて、ふたを開けました。
「もう大丈夫。出てくるがよい」
 ところが不思議な事に、中は空っぽです。
 その時、外から気味の悪い笑い声が聞こえてきました。
「うふふふふっ」
「あははははっ」
「わははははっ」
 外の笑い声は、どんどん空に上がっていく様子です。
「まさか!」
 主人が雨戸を蹴破って外に出ると、何百、何千という笑い声が空高く上っていき、その笑い声のする辺りから何かが落ちてきました。
  ヒュー、ドスン!
 見ると空から落ちてきたのは、長持の中から消えた男の生首でした。
「うふふふふっ」
「あははははっ」
「わははははっ」
 やがて笑い声は遠ざかって消えましたが、男の体は二度と帰ってこなかったという事です。

おしまい

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