夏の怖い話し特集
2013年 8月26日の新作昔話
下駄貸そか? 傘貸そか?
福井県の民話
むかしむかし、泉村(いずみむら)と言うところに、九右衛門辻子(くうえもんずし)と呼ばれている小道がありました。
小道の左には竹やぶがあり、右には良覚寺(りょうかくじ)の墓場があります。
この小道は雨の夜になると、
「下駄(げた)貸そか? 傘(かさ)貸そか?」
と、気味の悪い声がするそうです。
だから日が暮れると、みんなは怖がってそこを通りませんでした。
ある雨の夜の事、泉村の彦三郎(ひこさぶろう)という男が、酒に酔ってこの小道を通りかかりました。
すると竹やぶから、気味の悪い声がしました。
「下駄貸そか? 傘貸そか?」
彦三郎は小道に現れる化け物の話を知っていましたが、酒のせいで気が大きくなっているので大きな声で言いました。
「おおっ、貸してくれると言うのなら、貸してもらおうか」
そして竹やぶから踊り出た唐傘(からかさ)と高下駄(たかげた)を、そのまま家に持って帰ったのです。
さあ、これを見て彦三郎の奥さんはびっくりです。
「お前さん、なんて物を持って帰るんだい! 明日の朝一番に、竹やぶへ傘と下駄を返してきておくれ!」
奥さんはそう言うと、酔いつぶれて寝てしまった彦三郎の横で、頭から布団をかぶりました。
そして一睡もできないまま朝を迎えた奥さんは、恐る恐る土間(どま)に置いてある傘と下駄を見に行きました。
すると傘と下駄は、馬の足の骨と馬のわらじに変わっていたそうです。
竹やぶの化け物の正体はカワウソで、こうして人をだましては喜んでいると言われています。
おしまい
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