1月5日の世界の昔話
不思議なリンゴの木
ポーランドの昔話 → 国情報
むかしむかし、働き者のお母さんがいました。
お母さんには、ウラジスラフという息子が一人いました。
ある日、お母さんが野イチゴをバケツ一杯つんで帰ろうとすると、森の道に見たことのないおばあさんがすわっています。
「どうか、その野イチゴをくれないかね」
と、おばあさんは声をかけてきました。
おばあさんは、とてものどがかわいているようすなので、お母さんは野イチゴをバケツごとあげました。
おばあさんは野イチゴを全部食べ終わると、お母さんに言いました。
「ありがとうよ。おれいに、いいことを教えてやろう。あんたの息子は、一番好きな仕事をすれば幸せになるだろう」
「えっ、それはどんな仕事かね?」
お母さんが聞いたときには、おばあさんの姿は消えていました。
ただ、今までおばあさんが座っていた石の上から、一匹のトカゲが走って行くのが見えました。
「ああ、今のおばあさんは、魔法使いだったんだね」
お母さんはそう思うとうれしくなり、急いで家に帰りました。
さっそくお母さんは息子のウラジスラフに、服を作る仕立屋(したてや)と、クツ屋と、剣を作る鍛冶屋(かじや)へ仕事に行かせました。
でも、ウラジスラフは、いつもこう思っていました。
「どの仕事も金持ちが喜ぶだけ。ぼくはもっと別の仕事がしたい」
そのころこの国では、金銀の糸でししゅうのある服を着るのはお金持ちだけで、貧乏人は、一年中ずっとボロボロの洋服でした。
クツをはけるのもお金持ちで、貧乏人は裸足(はだし)でした。
剣を持って戦いに行くのはお金持ちでしたし、ウラジスラフはなにより戦争が嫌いでしたから、剣は作りたくなかったのです。
「そんならお前は、何の仕事がしたいのかい。一番好きな仕事をすれば、幸せになれるって魔法使いが言ったんだよ」
「それならぼくは、ウシ飼いがやりたいよ」
ウラジスラフは牧場へ働きに行き、草笛(くさぶえ)をふきながら、のんびりとウシ飼いの仕事を始めました。
そんなある日のこと、ウシを連れて森へ行くと火が見えます。
急いで行ってみると、たくさんのトカゲが火にかこまれているではありませんか。
ウラジスラフは火を足で消し、トカゲを助けてやりました。
すると、中の一匹がおばあさんの姿になって言いました。
「思ったとおり、あんたは優しくて勇気のある子だ。助けてもらったお礼をしよう。トカゲたちにウシの番をさせて、あたしについておいで」
ウラジスラフがおばあさんに連れて行かれたのは、ほら穴の中でした。
そこには二つの宝石箱があって、一つはルビー。一つはサファイアがつまっています。
そしてその奥には、金のリンゴがみのっているリンゴの木がありました。
「ルビーをえらんだら、あんたは世界で一番美しい人になる。サファイアをえらんだら、世界一金持ちでえらくなるだろう。金のリンゴの木をえらんだら貧乏なままだ。でも、リンゴの実をただで病気の人に分ければ、病気がなおって喜ばれるだろう。さあ、どれでも好きなのを一つ持って行くといいよ」
ウラジスラフは、金のリンゴの木を選びました。
そのとたん、金のリンゴの木は根っこをメリメリッと地面からぬくと、ウラジスラフについて来ました。
ウラジスラフは、金のリンゴの木を家の庭にうえました。
「まあ、なんてみごとなリンゴの木だろ。こんなリンゴの木は見たことないよ」
お母さんはウラジスラフの話を聞くと、目を丸くしてとても喜びました。
金のリンゴの木はかれることなく、毎日キラキラと金色のリンゴの実をつけました。
ウラジスラフはトカゲのおばあさんに聞かされたとおり、村中の病気の人に金のリンゴを分けてあげました。
するとほんとうに金のリンゴを食べると、どんなひどい病気の人もうそのように元気になりました。
あるとき、クマにふまれて死にそうな猟師が、ウラジスラフの家に運ばれて来ました。
金のリンゴは一つしかみのっていなかったのですが、ウラジスラフはそれをもいで食べさせようとしました。
ところがそこヘ、ウラジスラフのうわさを聞いて、お城の王さまが来たのです。
王さまはいばって言いました。
「鼻カゼをひいておる。金のリンゴをよこせ」
ウラジスラフは、はっきりとことわりました。
「金のリンゴは一つしかありません。今、死にかかっている猟師に食べさせます」
猟師に金のリンゴを食べさせるのを見ると、王さまは怒って金のリンゴの木をひっこぬき、城の庭にうえるように家来にめいじました。
金のリンゴの木は、引き抜かれないようにとがんばって根をはりましたが、とうとうひっこぬかれてお城につれて行かれました。
ウラジスラフは森へ走って行き、ほら穴を探すとトカゲのおばあさんをよびました。
わけを聞いたトカゲのおばあさんは、
「それなら、このナシの木をもってお行き」
と、いろいろな色のナシの実がなっている木をくれました。
「緑のナシを食べると、おでこからツノがはえる。赤いナシを食べれば、それは落ちる。青いナシを食べると鼻が大きくなり、黄色いナシを食べれば、もとどおりになるのさ。よくおぼえておくのだよ。さあ、これを持って城へお行き」
ウラジスラフは、いろいろな色のナシの木を連れて城へ行きました。
「まあ、きれいなナシ」
「一つ、分けてくださいな」
お城のめしつかいやお姫さまは、みんないろいろな色のナシの木から、緑や青のナシをもいで食べました。
王さまも、緑のナシを食べました。
そのとたん、みんなのおでこからツノがはえたり鼻が大きくなったりで、大騒ぎになりました。
「これ、このツノをとってくれ」
王さまがたのむので、ウラジスラフは、
「リンゴの木を返してくれるなら」
と、言いました。
「わかった。持って行け」
王さまがそう言うので、ウラジスラフは王さまに赤いナシを渡し、みんなにも、もとどおりになるナシをあげました。
それからウラジスラフは庭へ行き、金のリンゴの木を見つけました。
でも、金のリンゴの木はかれて、黒くなっています。
「さあ、帰ろう」
ウラジスラフはそう言って、地面から金のリンゴの木をひきぬきました。
するとたちまち、金のリンゴの木はひかりだし、ウラジスラフが歩きだすと、うれしそうについて歩きだします。
そして、ウラジスラフが自分の庭にうえると、金のリンゴの木はたくさんの金のリンゴの実をつけました。
金のリンゴの木は、前よりももっとたくさんの金のリンゴの実をつけ、ウラジスラフは村の人たちに喜ばれて、ほんとうに幸せでした。
おしまい
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