3月30日の世界の昔話
家の精
フィンランドの昔話 → 国情報
むかしむかし、とてもくいしん坊のお金持ちの主人がいました。
主人は毎日おいしいものを食べたくて、腕のいい料理人を一人やとっています。
料理人はいつも、お屋敷の広い台所で楽しく、主人のために料理を作っていました。
くいしん坊の主人は、朝食も昼食も夕食もおいしいものばかりで大まんぞくです。
ある日のこと、料理人が夕食のスープを作っていると、かまどの中から首に袋(ふくろ)をさげた、小さな家の精(せい)が出て来ました。
家の精は、料理人を見上げて言いました。
「あの、この袋一杯のスープがほしいんだけど」
料理人は、小さな家の精の袋一杯なら、お玉ひとすくいだと思って、お玉でスープをすくい、袋にいれようとしました。
すると家の精は、小さいくせにスープのナベをヒョイと持ちあげて、ゴクゴクゴクとナベいっぱいのスープを全部飲みほしてしまったのです。
そして家の精はかまどの中に飛び込んで、あっという間に消えてしまいました。
料理人は、こまってしまいました。
それは、またスープを作っていたら、ムニエルやゆでた野菜のサラダを作る時間がなくなってしまうからです。
料理人は仕方がないので、主人に家の精のことを話して、スープぬきの夕食をならべました。
ところが、くいしん坊の主人はカンカンです。
「今度その家の精が出てきたら、ぶんなぐってしまえ!」
でも料理人は、次の日に家の精が出て来たときにも、やはりスープを飲みほさせてしまったのです。
こんな小さな家の精をなぐるくらいなら、主人に自分がしかられた方がいいと思ったのです。
それで次の日も、スープぬきの夕食をならべました。
主人は、テーブルをたたいて怒りました。
「今度私のスープをぬすむ家の精が出て来たら、火の中に入れて焼いてしまえ! でないと、お前はクビだぞ!」
次の日も、家の精は袋をさげて、かまどの中からやって来ました。
「この袋一杯のスープを分けてほしい」
「でもだんなさまにしかられるんだよ。ほんとうに、袋一杯分ならわけてあげられるんだけど」
申しわけなさそうに料理人が言うと、家の精は、泣き出しそうな顔でいいました。
「実はうちの子供が病気なのです。子供にスープを持って行きたいのです」
「そうか。それは大変だなあ。それなら、いるだけ持って行っていいよ」
料理人が答えると、家の精はスープのナベを持ちあげ、グイグイとスープを飲みほしてしまいました。
くいしん坊の主人はその話を聞くと、やさしい料理人の首をつかんで、屋敷の外へほうり出しました。
お屋敷には、すぐに新しい料理人がやとわれました。
くいしん坊の主人は、
「家の精が現れても、絶対に何もあげてはいかん。なぐってしまえ!」
と、きびしく言いました。
新しい料理人のスープができあがったころ、かまどから家の精が袋をさげて出て来ました。
「この袋一杯、スープを分けておくれ」
新しい料理人は、主人の言っていた家の精だとわかると、思いっきりポカポカとなぐりました。
家の精は大ケガをして、泣きながら、やさしかった前の料理人を探しに行きました。
そして、森でションボリとすわっている料理人を見つけると、
「やさしいあんたに、おわびとお礼をしたいんだ。今夜屋敷のあかりが消えたら、屋敷の庭(にわ)に来ておくれ」
そう言うと、家の精はスーッと消えてしまいました。
夜、料理人は家の精に、屋敷にいれてもらってビックリ。
台所のかまどの中には、下へおりる階段があるのです。
その階段をおりたところには、宝石をちりばめた柱があり、その床は大理石(だいりせき)で出来ていました。
家の精は小さな箱を持ってきて、料理人に渡しました。
「この箱は願いのかなう箱だよ。ふたを開けてあんたの願いをいってごらん。きっとかなえてくれるから」
やさしい料理人はふたを開けて、おいしい料理の作れる大ナベと、どんなにかたい物でも切れる包丁(ほうちょう)を出してくださいとたのんでみました。
そのとたん、目の前にりっぱな大ナベと、キラリと光る包丁が現れたのです。
「ありがとう。これからも、ますますおいしい料理を作って人に喜んでもらえそうだ」
「よかったね。それからその箱は見事な台所も出せるよ。もちろん、宝石もお屋敷も、あんたの願いならなんでもかなうさ」
やさしい料理人は、家の精に何度もお礼を言って、魔法の小箱を持って屋敷を出て行きました。
そのようすを、こっそり新しい料理人が見ていました。
朝になると、新しい料理人は家の精をつかまえていいました。
「今すぐ魔法の小箱を出せ! 出さないと、首をちょん切るぞ!」
家の精は小箱を出して、新しい料理人に渡しました。
新しい料理人は主人の部屋へかけて行き、とくい顔で言いました。
「だんなさま、世界一おいしく美しいお料理をごちそういたしましょう」
それを聞いたくいしん坊の主人は、ゴクリとつばをのみ込みました。
「よし、それが本当なら、給料を二倍にしてやろう」
新しい料理人は、さっそく小箱のふたを開けて、大声で言いました。
「世界一おいしく美しい料理よ、出ろ」
ところが小箱から飛び出してきたのは、棒を持った百人の家の精たちです。
百人の家の精たちは、新しい料理人とくいしん坊の主人をポカポカとなぐり、こぶだらけにしてしまいました。
おしまい
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