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8月4日の世界の昔話

白カタツムリ

白カタツムリ
アンデルセン童話 → アンデルセンについて

 むかしむかし、スカンポという草が、まるで森のようにたくさん生えているところかありました。
 そこは大きなお城の庭で、スカンポは、お城に住んでいた人たちの大好物な白カタツムリのエサだったのです。
 でも、今はお城もなく、白カタツムリを食べる人もいません。
 そして白カタツムリの数もどんどん少なくなって、今ではたった二匹だけしか残っていませんでした。

 ある日の事、のんびり屋の白カタツムリのおばあさんが、おじいさんに言いました。
「ねえ、おじいさん。いつになったら、わたしたちはお皿にのって、おいしいお城のごちそうになるんでしょうねえ」
「さあ。もう、すぐじゃないのかな?」
 この二匹は、ずっとスカンポの葉の下の家にいたので、外の出来事は何も知らないのです。
「はやくお皿の上に、のりたいものねえ」
「うん。とにかく、お城のごちそうになれるなんて、たいした事だからなあ」
 おまけに二匹は、ごちそうになるという事が、どういう事か知らなかったのです。
 もし知っていたら、誰かのごちそうになって食べられてしまう事を、楽しみにするはずありませんからね。

「ところでおじいさん。うちには、子どもがいませんねえ」
「そうだね。どこかのカタツムリを、うちの子どもにするとしようか」
 そこで二匹は、同じスカンポの森にいる普通のカタツムリを、自分たちの子どもにしました。
「さあ、たくさん食べて、大きくなるんだよ」
「そう。大きくなって、早くわたしたちのようにおなり」
 でも、二匹は知りませんでした。
 普通のカタツムリは、いくらたくさん食べても、白カタツムリの様に大きくはならない事を。
「おじいさん。この子、すこし大きくなってきましたよ。からをさわってごらんなさい」
「どれどれ。ああ、ほんとだ、ほんとだ」
 二匹は子どものカタツムリのからをさわって、にっこりしました。
「このぶんだと、もうすぐ立派な白カタツムリになりますよ。ねえ、おじいさん」
「うん、楽しみだねえ」
 しばらくすると、二匹は子どものカタツムリがすっかり大きくなったように思えてきたので、こんな事を話し合いました。
「ねえ、おじいさん。そろそろうちの子にも、お嫁さんを見つけましょうよ」
「よし、さっそく探してやろう」
 二匹はスカンポの森を歩き回って、お嫁さんになるようなカタツムリを探しましたが、どこにもそんなカタツムリはいません。
 そこで、空を飛び回っている虫のブヨに聞いてみました。
「ブヨさん、どこかに、うちの子のお嫁さんになるようなカタツムリはいませんかね?」
 すると、ブヨが答えました。
「いますよ。ここから、人間なら百歩で行ける所に、スグリの葉っぱが生えているんですよ。そのスグリの根元に、可愛らしいカタツムリの娘が一人ぼっちで住んでいますよ」
 それを聞いて二匹は、さっそくスグリの根元までお嫁さんを迎えに行きました。
 小さなカタツムリの娘は、スカンポの森に来るまで、八日もかかりました。
「まあ、この娘はのろいですね。ねえ、おじいさん」
「うん。でも、のろいから、この娘がカタツムリだという証拠だ。わたしたちよりはやかったら、カタツムリじゃないよ」
「それも、そうですね」
 おばあさんは頷いて、すぐに若い二匹の結婚式をしました。
「はい、おめでとう」
「はい、おめでとう」
 おじいさんとおばあさんはそう言うと、うれしそうに、にこにこと顔を見合わせました。
「もう、わたしたちには、何の心配な事もありませんね、おじいさん」
「そうだね、おばあさん。お城のごちそうになる日まで、ゆっくり眠って待つとしようかね」
 そこで二匹はスカンポの葉っぱの下の家にもぐりこむと、すっぽりとからの中に閉じこもって眠ってしまいました。
 若い二匹の普通のカタツムリは、おしゃべりを始めました。
「ねえ、きみは知っているかい? ぼくたちはもっと大きくなって、お城のおいしいごちそうになるんだよ」
「あら、いやだ。もう、お城なんてありませんよ。それに、わたしたちは白カタツムリじゃないんですもの。いつまでたっても、このままの大きさですよ」
「おや、それは残念だ。ごちそうに、なってみたかったなあ」
 するとお嫁さんは、びっくりして言いました。
「とんでもないわ! ごちそうになって食べられるなんて嫌よ。ごちそうは、なるより自分で食べたほうがいいわ」
「そうか。それも、そうだね」
 そこで二匹は仲良く、むしゃむしゃとスカンポの葉っぱを食べました。
 しばらくすると、赤ちゃんカタツムリがたくさん生まれました。
 そんなわけで、このスカンポの葉っぱの下には、普通のカタツムリがたくさん住んでいるのです。

 ところで、白カタツムリのおじいさんとおばあさんは、いつになったら起きるのでしょうね。
 きっと、お城の大きなお皿の上にのって、おいしいごちそうになった夢でも見ているのでしょう。

おしまい

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