9月26日の世界の昔話
罪(つみ)ほろぼしをした男
スペインの昔話 → スペインの情報
むかしむかし、スペインの田舎町に、とても働き者の娘さんがいました。
娘さんはお金持ちの家で女中(じょちゅう)さんをしながら、一生懸命にお金をためました。
欲しい物も買わず、遊びにも行かなかったので、お金はたくさんたまりました。
そこで女中さんをやめて、自分の家へ帰る事にしたのです。
でもせっかくためたお金を、途中でドロボウにとられたら何にもなりません。
娘さんは心配になって、いつも親切にしてくれる宿屋のおかみさんのところへ相談にいきました。
「一人で帰るのは不安なので、誰か一緒に行ってくれる人はいないでしょうか?」
するとおかみさんが、こう言いました。
「それじゃ、うちのだんなに頼んでみるわ」
それを聞いて娘さんは、とても喜びました。
「わあ、ありがとうございます。おじさんなら、安心です。ぜひお願いします」
さて、娘さんは大事なお金を袋につめると、宿屋のだんなと一緒に出かけました。
しばらく歩いているうちに、だんなの頭にふと悪い考えが浮かんできました。
(この娘、けっこう金を持っていやがるな。・・・もし、この金が自分の物だったら)
すると急に、そのお金がほしくなり、
(もうすぐ山道だ。娘を殺して金をうばっても、誰にもわかりゃしない)
と、まで、思うようになりました。
そこで人気のない山道へ来ると、だんなが立ち止まって言いました。
「袋が重くて大変だろう。わしが持ってあげよう」
「ご親切に、すみません」
娘さんは何の疑いもなく、だんなに金の入った袋を渡しました。
そのとたん、だんなはふところからナイフを取り出して、娘さんにおそいかかったのです。
「な、なにをするんです!」
助けをもとめようにも、他には誰一人いません。
娘さんはたちまち、胸を刺されて死んでしまいました。
しかもだんなは娘さんが生きかえらないようにと、娘さんの首まではねて草むらの中にうめてしまいました。
そしてお金の袋を持って、逃げるように家へもどってきました。
だんなは、血のついたお金の袋を投げて言いました。
「むっ、娘をやっちまった」
「なんだって!」
おかみさんは、思わず声をはりあげました。
「大丈夫。誰にもわかりゃしないさ」
「この人でなし! あんたはオニだよ、悪魔だよ。わたしたちの友だちを、あんなに働き者の娘さんを殺すなんて!」
おかみさんは、髪の毛をかきむしってさけびました。
「おい、たのむから、そんな大声を出さないでくれ。ほんの出来心だったんだよ」
「わたしの亭主でなかったら、おまわりさんのところへつき出してやるのに」
「なあ、お願いだから、わしを助けてくれよ」
だんなは、おかみさんに手を合わせました。
「ふん! どうなっても、わたしは知らないからね!」
おかみさんはそれっきり、何も言いませんでした。
だんなはしばらく家に閉じこもっていましたが、頭に浮かんでくるのは娘さんが死ぬ時のおびえた顔でした。
うらめしそうな二つの目が、頭からはなれません。
だんなは何とかして娘さんの事を忘れようとすると、どこからともなく、
「罪ほろぼしをしなさい。罪ほろぼしをしなさい」
と、いう声が、聞こえてきました。
だんなはあわててあたりを見回しましたが、誰もいません。
すっかり怖くなって、おかみさんにその事を話すと、おかみさんがつめたく言いました。
「今度その声が聞こえたら、『どこで?』とたずねてみるんだね!」
次の日、だんなの耳にまた、
「罪ほろぼしをしなさい。罪ほろぼしをしなさい」
と、いう声が、聞こえてきました。
だんなは怖いのをがまんして、その声に聞きました。
「どこで?」
すると、その声が言いました。
「セビリアの町で」
だんなはビックリして、キョロキョロあたりを見回しました。
でもやっぱり、誰もいません。
だんなはこの事を、おかみさんに話しました。
「そんならお前さんは、セビリアの町へ行かなくては罪ほろぼしは出来ないよ」
「でも、用もないのに、セビリアの町へ行くなんて」
だんなが悩んでいると、いつの間にか何も聞こえなくなりました。
それから二、三ヶ月たつうちに、だんなは娘さんの事をすっかり忘れてしまい、おかみさんもその事にはふれなくなりました。
ある日、二人の紳士(しんし)が、この田舎町にやってきました。
だんなの宿屋に泊まった二人は、だんなに言いました。
「これからセビリアの町へ行くのだが、はじめてなので困っている。誰か案内をしてくれる者はいないかな? もちろん、お礼はたっぷりはずむが」
それを聞いただんなが、おかみさんに相談しました。
「そうだね。悪くない仕事だから、誰に頼んだって喜んで引き受けてくれるわ」
「そうだな。確かにこいつは、悪くない仕事だ。よし、わしが行こう」
だんなは、二人の紳士に言いました。
「それでは、わたしが案内しましょう」
こうして三人は、セビリアの町へ向かいました。
二人の紳士はお金持ちで、途中で食べたごうかな食事も紳士たちが払ってくれました。
三人がセビリアの町のホテルへ着いたのは、まだお昼過ぎでした。
すると、紳士の一人が言いました。
「おかげで助かったよ。お礼もかねて、夕飯に子ウシの頭の丸焼きをごちそうしたいが、どうだね?」
「そいつはうまそうだ。では、わたしが子ウシの頭を買いに行きましょう」
「ああ、よろしくたのむよ」
紳士からお金を受け取っただんなは、さっそく町の市場へ行って子ウシの頭を買いました。
だんなは子ウシの頭をマントの下へ入れると紳士の待っているホテルへ急ぎましたが、その途中で二人のおまわりさんに呼び止められました。
「おい、どこへ行くのかね?」
マントの前をふくらまして歩いているだんなを見て、おまわりさんはあやしい男と思ったのです。
「そのマントの下にかくし持っている物は、何かね?」
「はい、これからホテルへもどるところです。マントの下の物は、お客さんに頼まれた子ウシの頭です。晩ご飯のおかずにするもんで」
「では、その子ウシの頭とやらを、見せてくれないか?」
「いいですとも。べつに、あやしいもんじゃありませんから」
だんなはマントの下から、子ウシの頭を取り出しました。
ところがどういうわけか、子ウシの頭はいつの間にか、だんなが殺した娘さんの首にかわっていたのです。
「これが、子ウシの頭かね?」
「そんなバカな!」
だんなは、まっ青になりました。
さっき買ったのは、確かに子ウシの頭でした。
それがどうして娘さんの首にかわってしまったのか、いくら考えてもよくわかりません。
「お願いですから、ホテルへ行かせてください! 二人の紳士に会えば、わたしが子ウシの頭を買いに行った事がわかりますから」
「よし、そこまで言うなら、ホテルへ連れて行ってやろう」
おまわりさんたちはだんなを連れて、ホテルに行きました。
ところがホテルには、二人の紳士の姿はありませんでした。
ホテルの人にたずねても、そんな人は来ていないと言います。
「いや、確かに三人で、ここへ来たんだ!」
いくらだんなが言っても、ホテルの人は知らないと言います。
「お前は人殺しの上に、うそまでつくとはとんでもないやつだ!」
おまわりさんはだんなをろうやに放り込むと、裁判官をよんできました。
だんなは仕方なく、娘さんを殺して首をはねたことを白状したのです。
三日後、だんなは死刑になりました。
あやしい声が言ったように、だんなはセビリアの町で罪ほろぼしをしたのです。
おしまい
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