11月11日の世界の昔話
ホウと幽霊
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むかしむかし、中国のある村に、ホウという男がいました。
ホウは漁師で、近くの湖で魚を取って暮らしていました。
ある夏の事、ひと仕事を終えたホウが、のんびりと家で昼寝をしていると、いきなり、
「お前の命は、今夜限りだぞ!」
と、いう恐ろしい声がしました。
びっくりしたホウは、あわてて飛び起きると部屋の中を見回しましたが、部屋には誰もいません。
「おかしいなあ? 夢でも見ていたかな?」
すると今度は耳元で、さっきの声がはっきりと響いてきました。
「お前の命は、今夜限りだ! わかったか!」
「ひぇーーっ! 夢じゃないぞ!」
ホウはブルブルと震えながら、勇気を出して声の主にたずねました。
「いま言ったのは、だれだ!?」
すると、声の主が答えました。
「おれか? おれは幽霊だ。夜になったら、お前に取り付いて、お前を幽霊の仲間に引きずり込んでやるからな」
それを聞いたホウは、思わずその場にひれ伏すと、見えない幽霊に手を合わせて言いました。
「お願いです。どうか命だけは、お助けください」
「・・・そうか。では助けてやってもよいが、そのかわり、おれに飯を食わせろ。おれは腹がへっているんだ」
「はっ、はい。命が助かるなら、ごちそうぐらい、おやすいご用です」
ホウはさっそく、大切にしていたニワトリやブタを殺して、おいしい料理を山ほど作りました。
それから庭にござをしいて、出来たごちそうをずらりと並べました。
もちろん、とっておきのお酒も出しました。
「さあ、どうぞ。お召し上がりください」
すると不思議な事に、ござの上には誰もいないのに、茶わんや皿や箸が一人で動いて、ごちそうがどんどん減って行くのです。
ホウは目の前に動いてきたさかずきに、お酒をつぎながら考えました。
(やれやれ。幽霊のやつ、この調子ならこれからも現れて、ごちそうをねだるにちがいないぞ。財産を食いつぶされないうちに、幽霊を退治してしまおう)
そしてホウは、ごちそうのおかわりを取りに行くふりをして家の中に入ると、ふところに刀を隠して戻って来ました。
そしてござの上に、ごちそうの皿を置くなり、
「この幽霊めっ!」
と、見えない幽霊めがけて、切りつけました。
とたんに、ふわふわと飛んでいた茶わんや皿や箸がござの上に落ちて、あたりは、しーんと静かになりました。
(・・・やっ、やっつけたのか?)
ホウが安心したその時、周りからいっせいに、
「うわーん」
「うわーん」
「うわーん」
と、いう、悲しそうな泣き声がわき上がりました。
声の主は、何十人という、姿のない幽霊たちです。
「死んでしまった」
「かわいそうに。葬式を出してやろう」
「葬式をするには、棺おけがいるぞ」
「棺おけは、どこから手に入れたらいいのだろう?」
幽霊たちは口々に、こんなことを言い合っていました。
ところがそのうち、ホウの耳に、とんでもない言葉が聞こえてきたのです。
「この家の主は立派な木の船を持っている。あれを壊して、棺おけにしよう」
「そうだ、それがいい」
船を壊すと聞いて、ホウはびっくりです。
「なんだって! とんでもない! あの船は、おれの大切な宝物だぞ!」
そこでホウは、急いで湖にある船小屋に行きました。
船小屋にはホウの船がしまってあるのですが、船小屋の扉がバタンとひとりでに開くと、ホウの見ている前で、船はズルズルと小屋の外に引き出されていきました。
船の回りには、大勢の幽霊の気配があります。
「おーい。頼むからやめてくれ! その船を持っていかれたら、明日から魚が取れなくなってしまう!」
ホウが、いくら頼んでも、幽霊たちはやめようとはしません。
船はふわりと空中に浮くと、湖からホウの家の庭へと運ばれて来ました。
そして地面にドシンと置かれると、家の中からオノやノコギリや金づちがふわふわと飛んできて、船を棺おけに作り変えていったのです。
でも不思議な事に、くぎを打つ音だけは、一度も聞こえません。
やがて、立派な棺おけが出来上がりました。
すると、ホウの周りで、
「完成だー!」
「やった、やったー!」
「これで葬式が出来るぞー!」
と、いう、幽霊たちの喜びの声が上がりました。
そして幽霊たちは、ホウに殺された幽霊を棺おけの中におさめると、やがて棺おけは、ゆっくり、ゆっくりと、空に上りはじめました。
そしてどんどん浮かんでいった棺おけは、だんだんと小さくなって、雲の中に消えてしまいました。
「おーい。おれの船を返してくれー! お願いだから返してくれー!」
ホウは空に向かって、声をかぎりに叫びました。
すると雲の中から、さっき消えたばかりの棺おけが、まっすぐ地面に向かって落ちてきたのです。
「やっ。船が戻ってきたぞ!」
ホウが喜んだのもつかの間、棺おけは、
ヒューーーッ、ガシャーン!
と、すごい勢いで地面に叩きつけられて、粉々に砕け散ったのです。
そしてそのとたんに、
「わっはっはっは」
「わっはっはっは」
「わっはっはっは」
と、いう、大勢の幽霊たちの笑い声が、空一面に響き渡りました。
「わははははは。お前なんかに、おれさまが殺せるものか! 素直にごちそうを出していれば、そのまま消えてやろうと思ったのに、余計なことをするから、大事な船を壊してやったんだ!」
幽霊たちは一日中、空のかなたで笑い続けていたそうです。
おしまい
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