福娘童話集 小学生童話 5年生
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5年生の世界昔話

トラ退治

トラ退治(たいじ)
韓国(かんこく)の昔話 → 韓国のせつめい

 むかしむかし、あるところに、トラ狩(が)りのじょうずなおじいさんがいました。
 このおじいさんに鉄砲(てっぽう)をむけられたら、どんなにつよいトラもたちまちうちころされてしまいます。
 ですからトラ山のトラたちは、おじいさんのすがたを見るとあわててにげ帰ってしまいました。
「やあ、きょうはあぶないところだった。もう少しであのじいさんにみつかるところだった」
と、トラのお父さんはひやあせをふきながら、子どもにはなしました。
 おじいさんの腕(うで)まえは、トラたちのあいだでは、だれ一人知らないものはありません。
 けれどもおじいさんは、もう年をとっていました。
 それで鉄砲(てっぽう)のうちかたを、息子におしえたいと思いました。
 ところがこの息子はたいへんななまけもので、まったく鉄砲(てっぽう)をならおうとはしないのです。
「そんなものおぼえたって、しようがない。山じゅうのトラは、とっつあんがみんなたいじしちまうだろうから」
と、かってなことをいっては、毎日毎日遊んでいました。
 おじいさんはどうしようもなく、一人で山へいっては、トラをうちとっていました。
 けれども息子のお嫁(よめ)さんは、とてもしっかりしており、おじいさんはこのお嫁(よめ)さんだけをたよりにしていました。
 ある日、おじいさんがポックリと死んでしまいました。
 こんどは息子が働かなければ、くらしてはいけません。
 そこで息子は、しかたなしに山へ木をきりにでかけました。
 あるとき息子が山で木をきっていると、木のかげから大きなトラがあらわれました。
 息子はビックリして、腰(こし)がぬけてしまいました。
「ト、ト、トラさま。ど、どうか、お、お助けを・・・」
 トラは舌(した)なめずりをしていいました。
「だめだ。わしの家族はみんな、おまえのじいさんに殺されてしまった。こんどはこっちがおまえを殺す番だ」
「ト、トラさま。まってください。めしあがるなら、あしたの朝までまってください。このたきぎをうちへおいてきますから。そうしないと、うちのものがこまるんです」
「・・・ふむ。それなら、あしたの朝はやくこい」
 トラは、ゆっくり立ちさりました。
 息子は青い顔で家にたどりつくと、お嫁(よめ)さんに山でなにがあったかをはなしました。
「それで、どうするつもりなの?」
と、お嫁(よめ)さんはたずねました。
 息子は、
「夜があけたら、約束通り殺されにいくしかない」
と、いって、なきだしました。
 すると、お嫁(よめ)さんはニッコリしていいました。
「そうね。ではいってらっしゃいな。お父さんがトラたいじを教えてくださるといってたのに、なまけていたあなたがわるんいですもの」
 あくる朝、息子はションボリとうなだれて、山へのぼっていきました。
 お父さんに鉄砲(てっぽう)のうちかたぐらい教わっておけばよかったと思っても、もうどうにもなりません。
 おまけにお嫁(よめ)さんまで、ニッコリわらっておくりだしてくれたのです。
 これではもう、死ぬよりほかはありません。
 息子はお昼近くに、やっと、きのうの場所ヘつきました。
「やい、おそいぞ!」
 トラがキバをむいてどなりました。
「は、はい、その、あの・・・」
と、息子がモグモグいっていると、とつぜんうしろの木のあいだから、
「せがれ、おまえの前にあるのはたきぎか? それともトラか?」
と、いう声がしました。
 ハッとふりむくと、木のあいだからトラ狩(か)り名人のおじいさんが、鉄砲(てっぽう)をこちらにむけて立っているではありませんか。
 ビックリしたのは、トラのほうです。
 あわてて首をすくめると、息子に小声でいいました。
「たきぎです。と、いえ」
 息子は、いわれたとおり、
「たきぎです」
と、大きな声でへんじをしました。
「それなら、なぜさっさとたばにしてしばらないんだ」
と、おじいさんがたずねました。
 するとトラが、
「一人じゃしばれません。あとでやります。と、いえ」
「一人じゃしばれません。あとで・・・」
 息子がいいかけると、おじいさんは、
「一人でできないのなら、わしがてつだってやる」
と、いいました。
 トラはおどろいて、
「じいさんをよぶな。おまえ一人でしばれ。そのかわり、あとでほどいてくれよ。おまえをくうのは、やめにしてやるからな」
 そこで息子は、ふるえながらトラをしばりはじめました。
 するとおじいさんは、
「グルグルまきに、しばったか?」
と、たずねました。
「いいえ、一回きりです」
「たきぎなら、グルグルまきにしろ」
「うん。五回しばったよ」
「まだだ、もっと、しばれ」
 息子はいわれるままに、トラのからだをグルグルまきにしばりました。
「どうだ」
「十五回、しばったよ」
「よかろう」
 おじいさんは鉄砲(てっぽう)を持ちかえると、木のあいだからでてきました。
 そして近よってきて、息子の顔を見てニッコリ。
「・・・? あっ、あれっ、おまえかあ」
 現(あらわ)れたのは、おじいさんのすがたをした、自分のお嫁(よめ)さんだったのです。
 しっかりもののお嫁(よめ)さんのおかげで、だんなさんはトラを生けどりにしたのです。

おしまい

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