| 福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読
 
 
  イラスト たつよ   提供 らくがきの日常
 
 ふたを取らずに
 一休さんのとんち話 → 一休さんについて
  むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
 ある日の事、お金持ちの加平(かへい)さんが『ごちそうをしますから』と、一休さんを家に呼びました。
 一休さんが喜んで加平さんの家に行ってみると、おぜんにはたくさんのごちそうが並んでいました。
 
  「これはすごい。では、いただきます」一休さんがおはしを持って、おわんのふたを取ろうとした時です。
 
  「一休さん。そのおわんは、ふたを取らないで食べて下さい」と、加平さんが一休さんに言ったのです。
 それを聞いた一休さんは、ピーンと来ました。
 
  (ははーん。わたしのとんちを、試そうとしているのだな)一休さんはニッコリ笑うと、
 「では、お汁はあきらめて、他のごちそうをいただきましょう」
 
  と、おわんには手をつけずに、他のごちそうだけを食べていきました。すると加平さんは、
 「一休さん。
 そのおわんには、本当においしいお汁が入っています。
 
   是非とも、召し上がって下さい」と、言うのです。
 そこで一休さんは、こう言いました。
 「せっかくのお汁も、すっかり冷めてしまいました。
 
   すみませんが、おわんのふたを取らないで温かい物と取り替えて下さい」「・・・・・・」
 おわんのふたを取らずに、中のお汁を取り替える事は出来ません。
 でもそれを言うと、『そのおわんは、ふたを取らないで食べて下さい』と言った、加平さんの言葉が間違っていた事になります。
 これを聞いた加平さんは思わず手を打って、一休さんに頭を下げました。
 「いや、これは参りました。
 あなたは、うわさ通りのとんちの持ち主ですなあ。
 おわんの中身は、ふたを取って温かい物と取り替えてきますので、どうぞ一休さんも、ふたを取って召し上がってください」
 
 この事がみんなに知れ渡り、一休さんのとんちはますます評判(ひょうばん)になりました。
 おしまい  
 
 |