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タヌキと彦一

タヌキと彦一
彦一(ひこいち)話 → 彦一について

♪おはなしがきけるよ

朗読者 : 花水木

朗読者 : ひいらぎ
TIME 5分39秒  運営ブログ : 朗読の翼
6分19秒 運営ブログ おやすみなさい。またあした。

 むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
 この彦一の家の裏山には一匹のタヌキが住んでいて、毎日旅人にいたずらをしては喜んでいました。

 ある晩の事、タヌキは旅人に化けると、彦一の家にやって来ました。
「こんばんは、ちょいと、ひと休みさせてくださいな」
 戸を開けた彦一は、この旅人は裏山のタヌキに違いないと思いましたが、知らぬ顔で家へ入れてやりました。
 しばらくするとタヌキは、彦一に尋ねました。
「ところで彦一どんには、何か怖い物はあるか?」
 それを聞いた彦一は、このタヌキをからかってやろうと思いました。
「う〜ん、怖い物か。
 そう言えば、一つだけあった。
 でも恥ずかしいから、誰にも言わないでくれよ。
 実はな、まんじゅうが怖いんじゃ」
「えっ? まんじゅう?
 あの、食べるまんじゅうか?!
 あはははははっ、まんじゅうが怖いだなんて」
「ああ、やめてくれ!
 おら、まんじゅうって聞いただけで、体が震えてくるんだ。怖い怖い」
  ブルブルと震える彦一を見たタヌキは、
(これは、いい事を聞いたぞ)
と、大喜びで、山へ帰って行きました。

 次の朝、彦一が目を覚ましてみると、何と家の中に出来たてのまんじゅうが、山ほど積まれていました。
「おっかあ、馬鹿なタヌキからまんじゅうが届いたぞ。さあ、一緒に食おう」
 彦一とお母さんは大喜びで、タヌキが持ってきたまんじゅうを食べました。
 その様子を見ていたタヌキは、だまされたと知ってカンカンに怒りました。
「ちくしょう! タヌキが人間にだまされるなんて! この仕返しは、きっとするからな!」
 そしてその日の夜、タヌキは村中の石ころを拾い集めて、彦一の畑に全部放り込んだのです。
(えっへへ。これで彦一のやつ、畑仕事が出来ずに困るだろう)

 よく朝、畑仕事に来た彦一とお母さんは、畑が石ころだらけなのでびっくりです。
「ああ、家の畑が!」
 お母さんはびっくりして声をあげましたが、しかしそれがタヌキの仕業だと見抜いた彦一は、わざと大きな声でお母さんに言いました。
「のう、おっかあ。
 石ごえ三年というて、石を畑にまくと三年は豊作(ほうさく)だと言うからな。
 誰がしたかは知らんが、ありがたい事だ。
 これが石ではなくウマのフンじゃったら、大変な事じゃったよ」
 それを隠れて聞いていたタヌキは、とてもくやしがりました。
(ちくしょう! 石ごえ三年なんて、知らなかった。・・・ようし、石ではなく、ウマのフンなら大変なんだな)
 そしてその晩、タヌキは彦一の畑の石を全部運び出すと、今度はウマのフンを彦一の畑にうめておいたのです。

 さて、タヌキのまいたウマのフンは、とてもよいこやしになって、秋になると彦一の畑ではとても見事な作物がたくさん取れました。
「ちくしょう。おらでは、どうしても彦一にはかなわねえ。・・・くやしいよう」
 作物の実った畑を見て、くやし泣きをするタヌキに、彦一が声をかけました。
「おーい、タヌキどん。お前にも、家の畑でとれたサツマイモを分けてやるぞ。何しろお前のまいたこやしのおかげで、とてもよく育ったからな」
「あっ、ありがとう」

 それからはタヌキはいたずらをやめて、裏山でおとなしく暮らしたということです。

おしまい

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