|  |  | 福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読
 
 
  
 幽霊の仕返し
  むかしむかし、ある村に、みすぼらしい旅のお坊さんがやってきました。日が暮れてきたので、お坊さんは庄屋(しょうや)さんの門を叩いて言いました。
 「旅の僧です。どうか一晩、泊めてください」
 すると庄屋さんが出てきて、怖い顔で言いました。
 「気の毒だが、泊められん。
 実はこのあいだ、泊めてやった旅の男に大事な物をとられてしまった。
 たとえ坊さんでも、旅の者は泊めない事にしたんだ。
 さあ、はやく立ち去れ」
 「・・・それでは、仕方がない」
 お坊さんがトボトボ歩いて行くと、墓場に出ました。
 墓場には、新しい土まんじゅうが出来ています。
 むかしは人がなくなるとお墓に棺おけを埋めて、その上に土をかぶせてお墓にしたのです。
 その形がまんじゅうに似ている事から、『土まんじゅう』と呼んだのです。
 「申し訳ないが、ここで一晩、ごやっかいになりますよ」
 お坊さんは土まんじゅうをおがんでから、それをまくらに横になりました。
 
 その真夜中、寝ているお坊さんの前に、白い着物を着た男の幽霊が現れました。
 幽霊はお坊さんに、声を掛けます。
 「もしもし、お坊さん」
 その声に、お坊さんは目を覚ましました。
 お坊さんは幽霊を見ても驚かず、幽霊にやさしく言いました。
 「これはこれは。あなたはこの土まんじゅうの幽霊ですか?」
 「はい。くやしい事があって、あの世へ行けないでいます」
 「よろしければ、わけを話してくれませんか」
 「はい、ぜひとも聞いてください。
 わたしは、この村の庄屋さんの屋敷で働いていた者です。
 その屋敷に旅の男が泊まり、屋敷の物を盗んで逃げたのです。
 庄屋さんは、その泥棒が捕まらない腹いせに、
 『お前が泥棒を屋敷に引き入れたのだろう。そんなやつは許せん』
 と、わたしに泥棒の罪をかぶせて、刀で切り殺したのです」
 「そりゃあ、ひどい!」
 「わたしは何とか仕返しをしようと、毎晩幽霊にやって屋敷に行くのですが、屋敷の入り口には幽霊よけのお札がはっている為、中に入る事が出来ません。
 なにとぞ、幽霊よけのお札をはぎ取ってはいただけないでしょうか」
 幽霊は涙を流しながら、お坊さんに手を合わせました。
 お坊さんはこれまでにも何度か幽霊に出会いましたが、お願い事をされたのは初めてです。
 「うむ。罪もない人間に罪をかぶせて殺すなんて、とんでもない話だ。すぐに行って、お札をはがしてやろう」
 お坊さんは庄屋さんの屋敷に戻ると、入り口にはってある幽霊よけのお札をペッとはがしてやりました。
 「ありがとうございます」
 幽霊はお坊さんにお礼を言うと、お札がなくなった入り口から屋敷に入って行きました。
 そのすぐ後、
 「助けてくれえ! 幽霊だー!」
 と、庄屋さんの叫び声がしたかと思うと、
 「大変だー! 旦那さまが幽霊に驚いて、命を落とされたぞ!」
 と、屋敷の中が大変な騒ぎになりました。
 「これであの幽霊も、あの世へ行けよう」
 お坊さんは、静かにその場を立ち去りました。
 おしまい   
 
 |  |  |