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福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読
鼻たれ小僧
むかしむかし、たきぎを売って暮らしているおじいさんがいました。
ある日の事、おじいさんはたくさんのたきぎを背負って町に行くと、
「たきぎ。たきぎ。たきぎは、いらんかのう」
と、一日中大声をあげて売り歩きましたが、たきぎは少しも売れませんでした。
おじいさんは疲れはてて、橋の上に座りこみました。
もう家まで、たきぎを持って帰る力もありません。
「売れない物なら、せめて川の神さまに差し上げよう」
おじいさんはたきぎを一束ずつつかんで、川へ落としました。
「川の神さま。つまらぬ物ですが、受け取ってくだされ」
そして全てのたきぎを川へ投げ込んだおじいさんは、とぼとぼ家に帰ろうとしました。
するとその時、川の中から小さな子どもを抱いた美しい女の人が現れたのです。
「わたしは、川の神さまの使いです。川の神さまは、たきぎをいただいて大変お喜びです。お礼に、この子を差し上げましょう」
それを聞いておじいさんは、あわてて手を振りました。
「いや、貧乏なわしに、子どもを育てる事なんて」
「大丈夫です。この子は鼻たれ小僧と言って、欲しい物を頼めば何でも出してくれます」
「本当ですか?」
「そのかわり、毎日エビを食べさせてください。いいですか、毎日ですよ」
女の人はそう言って、鼻たれ小僧を置いて消えました。
おじいさんは鼻たれ小僧を家へ連れて帰ると、神だなの横に置いて大切に育てました。
女の人が言った事は、うそではありませんでした。
「鼻たれ小僧よ、お米がほしい」
と、言えば、鼻たれ小僧は鼻をかむ時のように『チンチーン』と音をたてて、あっという間にお米を出してくれるのです。
「鼻たれ小僧よ、お金がほしい」
「チンチーン」
「鼻たれ小僧よ、新しい家がほしい」
「チンチーン」
「鼻たれ小僧よ、大きな蔵(くら)がほしい」
「チンチーン」
おじいさんが頼めば何でも出してくれるので、やがておじいさんは村一番の大金持ちになりました。
大金持ちなので、山へたきぎを取りに行く必要はありません。
ただ毎日、町へ行って鼻たれ小僧に食ベさせるエビを買うだけです。
でもそのうちに、おじいさんはエビを買うのがめんどうになってきました。
ある日、おじいさんは鼻たれ小僧に言いました。
「もう頼む事がなくなったから、川の神さまの所へ帰っておくれ」
すると、どうでしょう。
ズーズーと、鼻をすするような音がしたかと思うと、立派な家も蔵も何もかもが消えてしまったのです。
あとには、むかしのままのみすぼらしい家が残りました。
「じゃあ、さよなら」
鼻たれ小僧はそう言うと、川の方へ歩いていきました。
「まっ、待っておくれ、鼻たれ小僧」
おじいさんはあわてて後を追いかけましたが、もうどこにも鼻たれ小僧の姿はありませんでした。
おしまい
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