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福娘童話集 > お話し きかせてね > 江戸小話の朗読
かまが大事
ある家に忍び込んだ泥棒が、台所からかまを盗んで逃げ出しました。
それを見つけた亭主は、泥棒の後を追って、どこまでもどこまでも追いかけました。
「全く、かまぐらいでしつこい奴だ」
泥棒は、どこまでもどこまでも逃げ続け、ついには大阪から京都までやってきました。
そして京の町で古道具屋を見つけると、
「親父、言い値で良いからかまを買ってくれ! 急いでいるんだ!」
と、言いました。
「へい。では急いで値段をつけましょう」
道具屋の主人がかまを受け取ると、追いかけてきた亭主が、
「どろぼーう! どろぼーう!」
と、大声で言いました。
「しまった。もう追いつきやがったな!」
泥棒は、あわてて逃げ出しました。
驚いた道具屋の主人が、亭主に尋ねます。
「いったい、これは、どうしたことで?」
「いや、実は、かくかく、しかじかで、ついに大阪から京都まで後をつけてきました」
わけを聞いた道具屋の主人は、あきれ顔で言いました。
「やれ、やれ。なんとも気の長いお人だ。何も大阪からここまで追って来なくとも、その場で『泥棒!』と、叫べばよかったろうに」
すると亭主は、大事そうにかまをなでながら言いました。
「いや、いや。不注意(ふちゅうい)に声をかけたら、泥棒は大事なかまを放り出して逃げるだろう。それではこのかまが、割れてしまいます」
おしまい
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