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猫神(ねこがみ)
長崎県の民話→ 長崎県情報
むかしむかし、佐世保(させぼ)の黒髪町(くろかみちょう)に、一人の侍がいました。
侍は身重の奥さんと女中、それにタマという名の猫と、みんな仲良く暮らしていました。
侍夫婦は大の猫好きで、二人の可愛がりようは大変なものでした。
さてその頃、里では大イノシシが現れては、田畑を荒らしていました。
百姓たちは困り果てて、侍にイノシシ退治を頼んだのです。
「民を守るのは侍の役目、引き受けましょう」
その夜、侍は弓矢を持ってイノシシ退治に出かけました。
ところが奥さんは、心細くてなりません。
なぜなら、お腹の赤ちゃんが、今夜あたりにも産まれる様な気がしたからです。
それに女中も里帰り中なので、家には誰もいなくなってしまうからです。
「どうか、今夜は家にいて下さいませ」
奥方はそう言いましたが、侍は、
「なに、すぐに戻って来る」
と、出かけてしまいました。
里のはずれの湯田(ゆだ)の尾の池まで来た侍は、木陰に身をひそめてイノシシが現れるのを待っていました。
するとその時、後ろで何やら気配がします。
はっと弓を構えて振り向くと、何とそこには里へ帰っているはずの女中が立っていたのです。
「なぜここに? 里へ帰ったはずでは」
「・・・・・・」
女中は答えず、何かを訴える様に侍に近づいて来ます。
「さては、お前は噂に聞くタヌキだな。よし、手始めに、まずはこのタヌキから」
侍は、女中目掛けて矢を放ちました。
「ぎゃーーーっ!」
確かな手応えを感じた侍がそこへ行ってみると、そこには血の跡しかありません。
「逃がさぬぞ!」
侍が血の跡をたどってどんどん進んでいくと、何と自分の家まで続いていたのです。
「もしや、妻の身に何か!」
侍が家に飛び込むと同時に、家の中から、
「オギャー、オギャー」
と、いう、赤ん坊の泣き声が響きました。
「おおっ、生まれたか!」
侍はタヌキの事は忘れて、無事に赤ちゃんを産んでくれた妻の介抱をしました。
翌朝、再び血の跡をたどって行った侍は、血の跡が続いている床の下をのぞいてびっくりです。
何とそこには可愛がっていた猫のタマが、矢が刺さったまま死んでいたのです。
猫のタマは女中に身を変えて、奥さんの出産を知らせに行ったのでした。
「そうか。そうだったのか。タマよ、許してくれ」
侍は祠(ほこら)を立てると、タマの霊をなぐさめました。
これが黒髪町(くろかみちょう)に残っている『猫神さま』と呼ばれる祠で、今も猫を可愛がる人のお参りが絶えないそうです。
おしまい
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