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カッパのトゲぬき薬

カッパのトゲ抜き薬
茨城県の民話茨城県情報

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朗読 : エクゼムプラーロ

 むかしむかし、ある屋敷の裏の井戸(いど)に、毎日の様におかっぱ頭の男の子がやって来ました。
 男の子は深い井戸の中をしばらくのぞき込んでは、スーッとどこかへ消えていくのでした。
「何をしているのだろう? 今度来たら、話しをしてみよう」
 屋敷の人たちはそう思いましたが、男の子は気がつくと、もう姿がないのです。
 話を聞いた屋敷の主人は、井戸のわきにひそんで男の子が来るのを待ちかまえました。
 用心のために、(かたな)を持っています。
 そこへ何も知らない男の子がやって来ると、いつもの様に井戸の中をのぞき込みました。
 そこへ、屋敷の主人が現われました。
「お前はどこの子だ? 何で毎日の様にここへ来て、井戸の中をのぞき込んでいく」
 主人の持っている刀を見た男の子はブルブルと震えながら、その場ヘペタンと座り込んでしまいました。
「どうやら、お前は人間の子ではなさそうだな」
 主人は、刀をにぎりしめました。
 すると男の子は、あわてて言いました。
「あ、あやしい者ではありません。村はずれの川に住む、ただのカッパでございます」
「カッパだと? カッパが何で、井戸をのぞくんだ?」
「はい。実は、深い井戸の底にある、きれいな水を見ているだけです。
 この井戸の水は、とてもきれいですから。
 わたしたちカッパはきれいな水を見ると、とても気持ちがいいんです」
「お前は気持ちいいかもしれんが、家の者たちは気味悪がっておるんだ」
 主人はおどすつもりで、刀を振り上げました。
「ご、ごかんべんを。命ばかりは、お助けを」
「いや、ならぬ!」
「命を助けてくださいましたら、カッパのトゲぬき薬のつくり方を教えますから」
「トゲぬき薬? はじめて聞くが、それはどんな薬じゃ。つくり方を言ってみろ」
 するとカッパは、まじめな顔をして、
「ナシの葉とカキの葉と、野山にあるマユミ(→ニシキギ科の落葉小高木)の葉を、それぞれ土用の丑の日(どようのうしのひ)にとって、こまかくちぎってよくまぜて、それから・・・」
と、トゲぬき薬のつくり方を説明したあと、
「これはカッパの秘薬です。つくり方は、お屋敷の跡継ぎの方にだけに教えてください」
と、つけくわえました。
 主人はカッパを許してやると、夏の土用の丑の日を待って薬をつくってみました。
 そして試してみると、本当にどんなトゲでもトゲの方からスルリと抜けてくるのです。
「なるほど。これは大した物だ」
 屋敷の主人がこのトゲ抜きの薬を村人たちに売ってみると、これが大評判(だいひょうばん)で、つくってもつくってもすぐに売り切れてしまいました。
 トゲ抜きの薬などと思うかもしれませんが、仕事がら、お百姓(ひゃくしょう)はトゲが刺さる事が多いのです。

 その後、屋敷ではカッパの像(ぞう)をつくって、屋敷の裏の井戸のわきにまつったという事です。

おしまい

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