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福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読
娘の生まれかわり
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むかしむかし、江戸(えど→東京都)の神田(かんだ)の町に、善八(ぜんぱち)という旅の好きなお年寄りがいました。
ある年の春の事、旅に出た善八が大阪から奈良に向かっていると、十六、七の娘が走って来て、善八の前まで来るとバッタリと倒れてしまったのです。
ビックリした善八は、あわてて娘を抱き起こそうとしましたが、娘はすぐに気がついて、こんな事を話しはじめたのです。
「わたしは、伊勢(いせ)の染(そ)めもの屋の娘です。
おつかいの帰りにならず者たちにつかまって、大阪へ売られるところでした。
すきを見て、ここまで逃げてきたのです。
どうか、お助けください」
娘は涙を流しながら、そう言うのです。
このままここにいては、いつならず者たちがやって来るかわかりません。
善八は次の宿場(しゅくば)でカゴ屋を頼むと、娘を家まで送って行きました。
娘が帰って来た事を知った両親は大喜びすると、善八を家に泊めて大変なもてなしをしてくれました。
次の日の朝、善八が旅の支度をしていると、元気になった娘がやって来て言いました。
「ご恩を忘れないためにも、ぜひ、何か身につけているものをわたしにください。
それをあなたさまと思って、朝夕、感謝を込めておがみ、お礼を申し上げます」
と、言うのでした。
「そうかい。しかし身につけている物と言っても、これぐらいしかないが」
善八はお守りの袋に入れてある、浅草(あさくさ)の観音(かんのん)さまの紙のお札(ふだ)を娘に手渡しました。
そして奈良へは行かずに、江戸へ戻って来たのです。
すると留守の間に、息子のお嫁さんが男の子を産んでいました。
善八が帰ってきた日は、ちょうど初孫のお七夜(しちや)でした。
ところがどうした事か、孫は生まれた時から左の手をにぎりしめたまま泣き続けているというのです。
「どれどれ。なぜ、そんなに泣くのじゃ。ほれっ、わしがおじいちゃんだよ」
善八が泣き続ける孫を抱き上げると、不思議な事に孫はピタリと泣くのをやめて、にぎりしめていた赤い手を開いたのです。
「おや、何か持っているぞ。はて。これは何じゃな? ・・・ああっ!」
孫が手の中ににぎっていたのは、何と浅草の観音さまの紙のお札だったのです。
善八が伊勢の染めもの屋の娘に手渡した、あのお守りの紙のお札でした。
しかも善八が持っていた物と、はしのやぶれ方も同じです。
善八はビックリして、旅での出来事を家の者たちに話しました。
あまりにも不思議な事なので善八がすぐに娘に手紙を書きますと、折り返し染めもの屋から返事が来ました。
娘の両親からの手紙には、何と善八が帰って間もなく、娘は急な病で亡くなったと書かれていました。
後から調べてみると娘が息をひきとった明け方の五時は、善八の初孫が生まれた時刻とピッタリ同じです。
「この子は生まれる前の世で、あの娘からこのお札を手渡されたんだ。この子は男の子だが、あの娘の生まれかわりかもしれないな」
善八はそう言うと、ジッと初孫の顔を見つめていたという事です。
おしまい
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