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福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読
久米の仙人(くめのせんにん)
奈良県の民話 → 奈良県情報
むかしむかし、大和の国(やまとのくに→奈良県)に、竜門寺(りゅうもんじ)というお寺がありました。
このお寺に二人の男がこもって、仙人(せんにん)になる修行をしていました。
仙人になると年も取らず、死にもせず、空を自由に飛ぶ事が出来るからです。
この二人の名は、『あずみ』と、『久米(くめ)』といいました。
長く苦しい修行のかいがあって、はじめに、あずみが空に飛び上がりました。
続いて久米も、空に飛び上がりました。
さて、久米は空を飛んで行くうちに、吉野川(よしのがわ)まで来ました。
久米が地上を見下ろすと、きれいな水が流れていて、岸のそばで若い女の人が洗濯をしているのが見えました。
(なんと美人な)
久米は女の人の美しさに、思わず見とれてしまいました。
そのとたん久米はバランスを崩して、あっという間に川に落ちてしまいました。
バシャーン!
久米は、全身ずぶぬれです。
そして女の人も水しぶきのために、着物から顔からびしょぬれです。
「まあ!」
女の人は、天からふってきた人間にびっくりしました。
しかし、おかしいやら気の毒やらで、女の人は思わず吹き出しました。
「まあまあ、あなたもわたしも、びしょぬれだ事」
一方、久米は困ってしまいました。
きびしい修行の末に仙人になれたのに、美しい女の人に見とれたために、また元の人間に戻ってしまったのです。
しかしこの事がきっかけになって、その女の人は久米のお嫁さんになりました。
その頃、天皇が大和の国の高市郡(たけちのこおり)に、宮殿を作ることになりました。
そこでその仕事をするための人夫が集められて、久米もその人夫にかり出されたのです。
久米の仕事は、山のふもとから宮殿をたてる場所まで材木を運ぶ事です。
ある日、ほかの人夫たちが久米のことを、
「仙人、仙人」
と、呼んでいるのを聞いて、不思議に思った役人が尋ねました。
「お前たちはあの男の事を、なぜ仙人と呼ぶのだ?」
「へい、それはですね」
人夫たちは久米が仙人になった事、その仙人が空から落ちて普通の人間になった事を、おもしろおかしく役人に話して聞かせました。
すると役人は、
「ほう。これはまた、尊いお方がおいでになったもんだ。
仙人にまでなったお方なら、いくら普通の人間になっても材木を飛ばすぐらいわけなくお出来になるだろう」
と、からかい半分に言いました。
言われた久米は、困ってしまいました。
「いいえ、わたしはもう、仙人の術など忘れてしまいました。
それはもう、前の前の事でございます。
今はこの通り、ただの人夫になっております。
どうか、ごかんべん願います」
久米はそう言って、頭を下げました。
すると役人をはじめ、人夫たちはどっと笑いました。
「あははははは。仙人が頭を下げたぞ」
「あははははは。仙人も落ちぶれたものだな」
そう笑われると、久米はくやしくてたまりません。
(仙人になりそこなったといっても、仙人の術が全て失われたわけではあるまい。
今さら仙人になる事は出来ないとしても、もう一度、まごころを込めてお祈りすれば、神さまも力を貸してくださるだろう)
そう思いながら、久米は役人に言いました。
「物は試しということもありますから、一つお祈りしてみましよう」
すると役人は、
「あははははは。それはありがたい。一つやってもらおうか」
と、また笑って答えました。
久米はだまって、その場をはなれました。
そして家に帰るとお嫁さんにわけを話して、一人でお堂にこもりました。
そして久米は断食して、七日七夜、一生懸命にお祈りを続けました。
材木運びの仕事場では、久米の姿が見えないので役人たちは笑いながら、
「おい、仙人はどうしたんだろう?」
「うわさによると、本当にお祈りをしているそうだよ。馬鹿なやつさ」
と、馬鹿にして言いました。
さて、久米のお祈りが終わった八日目の朝。
今まで晴れわたっていた空が急にくもりはじめ、たちまち黒雲が一面に空をおおってしまいました。
そしてかみなりがなりひびき、たたきつけるような大雨が降り始めました。
「これは、ただ事ではないぞ」
「何かの、たたりにちがいない」
役人も人夫たちも、みんなぶるぶるふるえながら仕事場のすみでしゃがみこむばかりです。
すると急にあたりが明るくなり、かみなりの音は消えて雨がやみました。
役人や人夫たちは、恐る恐る仕事場に集まってきました。
見ると材木が山ほど積んであったはずなのに、それが一本もないではありませんか。
「おい、材木がないぞ、一本もないぞ」
「どうしたんだ? 誰かにぬすまれたのか?」
「馬鹿言うな。あんな材木を、ぬすめるわけがない」
みんなはびっくりしながらも、宮殿をたてる場所までのぼっていきました。
すると、どうでしょう。
「あっ、ここにある、こんなところに来ているぞ!」
仕事場にあった材木は一本残らず宮殿を建てる場所に、しかもきちんと並べてあったのです。
「誰が、運んだのだろう?」
「もしや、久米か?」
「そうだ、久米の奴が。いや、仙人さまがやったに違いない」
やがてそしてこの話しが、天皇のお耳に入りました。
天皇はほうびとして、久米に三十町歩(→約三十ヘクタール)の田を与えました。
久米は喜んで、この土地にお寺を建てました。
久米寺(くめでら)は、こうして建てられたのだといわれています。
→ 久米寺 - Wikipedia
おしまい
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