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福娘童話集 > お話し きかせてね > 日本昔話の朗読
梅津(うめづ)の長者
京都府の民話→ 京都府情報
むかしむかし、山城の国(やましろのくに→京都府南部)の梅津というところに、貧しい暮らしをしている夫婦がいました。
夫婦は今の貧しい生活から抜け出たいと願い、毎日えびすさまにお祈りをしました。
でもそれは自分の欲からではなく、夫は妻に、妻は夫に、おいしい物を食べさせ、あたたかい着物を着せてやりたいと願ったからです。
ある時、男がせりを摘(つ)みに野原に出かけていると尼さんが通りかかって、困り果てた様子で京への道を尋ねてきました。
男はていねいに道の説明をしていましたが、なかなかうまく伝わらないので、男はわかりやすいところまでの道案内をしてやりました。
そして目的地まで行くと、再びていねいにそれからの道を教えたので、尼さんにもようやく理解が出来たようでした。
とても喜んだ尼さんは、
「おかげさまで、助かりました。
これはわずかですが、私のお礼の気持ちです。
どうぞお餅でも、買って食べて下さい」
と、男に一文銭を渡しました。
「これはどうも、ありがとうございます」
男は一文銭を握りしめると、いちもくさんに家へと帰りました。
そしておかみさんに尼さんとの出来事を話して、さっそく餅を買ってくるように言いました。
おかみさんも、とても喜んで、
「今日は、何ていい日なんでしょうね。せりもたくさん手に入ったし、お正月でもないのにお餅まで食べられるのだからね」
と、急いで餅を買いに走りました。
その一文銭で、餅を二個買う事が出来ました。
つきたての柔らかくて白いお餅を大事そうに抱えながらの帰り道、おかみさんは粗末な身なりのおじいさんに声をかけられました。
「そこのお人。どうぞ人助けと思って、このあわれな年寄りに、その餅を一つめぐんでは下さらんか」
大切なお餅でしたが、おかみさんはおじいさんににっこり微笑むと、
「はい。どうぞ、おあがり下さいな」
と、餅を一つ、おじいさんに渡しました。
これでお餅は一つきりになってしまいましたが、おかみさんの心は前よりももっと温かでした。
そして家に帰って、夫にその事を話すと、
「それは、とてもいい事をしたね」
と、男もとても喜び、残りの餅を仲良く二つに割って食べました。
さて、その夜の事です。
二人がとても幸せな気持ちで寝ていると、二人の夢の中に突然えびすさまが姿を現して、こう言ったのです。
「今日はお前たち、大そう良い事をしたな。
餅をめぐんでやったのは、実はこの家に住みついている貧乏神じゃ。
その貧乏神がわしのところに来て、涙ながらに言った。
『夫婦のやさしい心根に心をうたれたから、この家を出て行きたい』と、
そしてその代わりに、福の神を呼び寄せて欲しいとな。
そこでわしは仲間の福の神を呼んで、皆でこの家をもりたてる事にしたのじゃ」
えびすさまの言葉が終わったとたん、大黒様(だいこくさま)や福禄寿(ふくろじゅ)、寿老人(じゅろうじん)や布袋(ほてい)さまが次々に現われ出て、
「さあ、ここが新しい家じゃ。皆で祝いの酒盛りだ」
と、酒盛りを始めました。
そしてお酒がまわり始めた頃、えびすさまと布袋さまが相撲をとることになりました。
見事な名勝負の末、二人は組みあったまま夫婦の寝ている布団の上に転がりました。
「うひゃー!」
「きゃあー!」
びっくりした男とおかみさんは、そのひょうしに目を覚ましました。
「えびすさまが」
「布袋さまが」
二人は同じ夢を見ていた事を知って、さらにびっくりです。
その後、この夫婦は幸運続きでついに梅津一の大金持となり、人々から梅津の長者と呼ばれました。
おしまい
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