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3月16日の世界の昔話
空飛ぶトランク
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むかしむかし、あるところに、大金持ちの商人がいました。
この商人は、町の道ぜんぶに銀貨をしきつめることができるくらい、たくさんのお金をもっていました。
けれどもむだづかいをせず、じょうずにお金をためていました。
ところがある時、この商人が死んで、ひとり息子が財産をそっくりもらうことになりました。
息子はお父さんとちがって、むだづかいが大すきです。
毎晩、舞踏会(ぶとうかい)へいったり、紙のお金でたこをつくってたこあげをしたり、金貨を水になげて遊んだりしていました。
これでは、いくらお金があってもたりません。
とうとう息子は、すっかり貧乏(びんぼう)になってしまいました。
着るものも古いねまきだけ、足にはスリッパです。
お金がなくなると、もう、友だちはだれもあいてにしてくれません。
けれど、たったひとりだけ、
「荷物でも、入れたまえ」
と、古いトランクをもってきてくれた友だちがいました。
「なんて、しんせつなやつなんだろう」
息子はよろこびましたが、中に入れる荷物など、今はひとつもありません。
「よし、荷物がないなら、ぼくを入れちまえ」
息子はふざけて、トランクの中に入りました。
それからカギのところをおしてみますと、とたんにビューッと、トランクが空にとびあがったのです。
「うわっ、これは、魔法のトランクだったんだ!」
息子は、ビックリしました。
トランクはどんどん高く、遠くへとんでいきます。
とんでとんで、トランクはトルコの国までとんでいって、やっと下におりました。
息子は森の中のかれ葉の下にトランクをかくすと、町のほうへいってみました。
息子のかっこうは、ねまきにスリッパのままでしたが、だれからもへんに思われません。
「よかった。この国ではみんな、このねまきのような長い服を着ているんだな」
息子が安心して町を歩いていると、へんなお城が見えてきました。
まどがずっと上のほうの、屋根の近くにしかついていないお城なのです。
息子が通りかかった女の人に聞いてみますと、女の人はこう教えてくれました。
「ああ、あそこには、かわいそうなお姫さまがいるのよ。お姫さまは好きな人のために不幸になるという、おつげがあってね。王さまはお姫さまがだれも好きにならないように、あんなところにとじこめたのさ」
息子はその話を聞くと、すぐ森に引き返しました。
そしてトランクを出すと、また空を飛んで、お城のお姫さまの部屋まで行ってみました。
お姫さまは、とてもきれいで、息子はたちまち好きになってしまいました。
「ぼくはトルコの神さまです。空を飛んでここにきました」
と、息子がいうと、お姫さまはとても喜びました。
おつげにあったのは、人を好きになったときで、神さまなら好きになっても大丈夫です。
息子とお姫さまはすっかりなかよくなって、結婚の約束をしました。
「でもそのまえに、わたしのお父さまとお母さまに、とてもおもしろいお話をしてあげてください。そうしたら、二人ともあなたが気に入るでしょうから」
お姫さまはそういうと、息子に金貨のちりばめてある刀をくれました。
息子は森に帰ると、おもしろいお話を考えました。
それから刀の金貨で、りっぱな服を買いました。
息子がまたお城にいきますと、王さまも、おきさきさまも、大臣も、えらい人たちがみんな集まっていました。
「では、これからマッチの物語をします」
息子は台所におかれたマッチのじまん話や、おなべやお皿やほうきやカゴの話をしました。
話のさいごは、マッチをパッと小さな花火のようにもやしておわりました。
「これは、おもしろい。いい話だった」
王さまも、おきさきさまも、息子の話がとても気に入りました。
もちろん息子も気に入られて、大よろこびです。
さあ、つぎは結婚式です。
結婚式のまえの晩は、町じゅうがおまつりさわぎでした。
おいしいパンやビスケットが、町の人びとにくばられました。
子どもたちはよろこんで、口笛をふきました。
息子も、ジッとしてはいられません。
そこでいろいろな花火をたくさん買ってくると、それをトランクに入れて、空高くとびあがりました。
シュー、シュルシュル、パパン、パン!
花火がいくつも空ではじけるのを見て、町の人たちはビックリしていいました。
「やっぱり、お姫さまのおむこさんは、えらい神さまだ」
息子はトランクからおりて、また森の中にかくすと、町の人びとのうわさを聞きにいきました。
みんなは、空とぶトランクや息子のようすを、
「神さまは、星のような目をしていた」
「火のマントを着てとんでいた」
それぞれにちがうことをいっていましたが、
「とにかく、すばらしかったよ」
と、さいごには、かならずいうのでした。
息子は、うれしくなって森に帰りました。
ところが、たいへんなことがおこりました。
花火の火の粉がもえあがって、トランクをすっかりもやしてしまったのです。
息子は、もうお姫さまのところへとんでいくことができません。
かわいそうに、お姫さまはずっと息子をまっていました。
きっと、いまでもまっていることでしょう。
おしまい