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8月30日の日本の昔話
キツネのさいなん
江戸の王子村(おうじむら→いまの北区王子)に、ゆうめいなおいなりさんがありました。
おいなりさんには、おおぜいのおまいりの人たちがやってきますので、おみやげ屋も料理屋も、大はんじょうしていました。
「おれも、王子いなりにおまいりして、ごりやくをさずかろう」
あるとき、ちょうしのいい男が、王子村へやってきました。
おいなりさんのちかくのたけやぶをとおりかかると、一ぴきのキツネが、たちまちきれいなむすめにばけて、おいなりさんのほうへあるいていきます。
おまいりの人をだまして、ごちそうにありつくつもりでしょう。
男はむすめのあとをつけていって、
「よう、おたまちゃん。あんたもおまいりかい。いっしょにいこうじゃないか」
と、なれなれしく、みちづれになりました。
おまいりがすむと、男はむすめと料理屋にあがりこんで、酒や料理をたのみました。
「さ、きょうはおれのおごりだ。えんりょなく、やっておくれ」
男がドンドン酒をすすめると、むすめにばけたキツネは、ついのみすぎて、ねこんでしまいました。
男はなおも飲み食いしたあげく、おみやげまで買うと、
「代金は、つれのむすめにあずけてある。いまはねているから、あとでもらってくれ」
と、いって、さっさとかえってしまいました。
さて、しばらくたってもむすめがおりてこないので、みせの人がざしきをのぞいてみると、むすめがしっぽを出して、ねているではありませんか。
「この、ばけギツネめ!」
みせの人たちにおいまわされて、人にだまされたキツネは、いのちからがら、たけやぶへにげかえりました。
おしまい