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9月14日の日本の昔話
  
  
  
  金の鳥居
 むかしむかし、ある村に、まだ年のわかい夫婦がおりました。
   たいへん貧乏でしたが、それはそれは仲のいい夫婦でした。
   でもひとつだけ、こまったことがあります。
   それは、亭主の頭に毛が一本もないことです。
   女房は、それがふびんでなりません。
  (亭主は立派な男の人なのに、毛が一本もなくては、まげひとつゆうてあげられん。ちゃんとまげさえゆえれば、いくらでも仕事があるというのに・・・)
   いろいろ薬をつけてみましたが、どうしても毛が生えてきません。
  (ああ、このうえは、神さまにおすがりするほかはない)
  と、ある日、亭主にそうだんすると、亭主も、
  「それほど心配してくれるとは、ありがたい。さっそくふたりで、鎮守(ちんじゅ→その土地の守り神)さまにおまいりにいこう」
  と、いうわけで、夫婦は村の鎮守さまにおまいりしました。
   亭主が、
  「どうか、わたしの頭に毛が生えますように」
  と、手をあわせれば、そのとなりで女房も、
  「どうぞ、うちの人の頭に毛を生やしてくださいませ。生やしてくだされば、そのおれいに金の鳥居(とりい→詳細)をさしあげます」
  と、一心におねがいしました。
   ねがいのかいがあってか、ふたりが家にかえってみると、あらふしぎ、
  「まあ、おまえさん。毛が生えております。頭にちょこんと三本の黒い毛が生えております」
  「おお、なんとありがたい」
   ふたりは、顔を見あわせて大喜びです。
   こうして、つぎの日も、またつぎの日も、ふたりがおまいりしていると、やがて亭主の頭に、黒ぐろとした美しい毛が生えそろいました。
   おかげで、りっぱなちょんまげをゆうことができました。
   さて、ここまではよかったのですが、ふたりは神さまとのやくそくごとを思いだして、ハッとしました。
  「金の鳥居を、鎮守さまにおそなえせねばならん」
  「でも、貧乏なわたしたちのこと。金の鳥居どころか、木の鳥居さえ、どうしてあげられましよう」
  「ああ、どうすればいいのじゃ」
  「神さまに、うそをついてはもったいない」
   ふたりは、ちえをしぼりにしぼって考えました。
   しばらくして、
  「あっ、いいことがある。おまえさま」
  と、女房が亭主にヒソヒソヒソ。
  「そうだ。それがいい。それがいい」
  「ね、そうしましょう。そうしましょう」
  と、話がきまって、さっそく、木綿針(もめんばり)の太いのを四本もって、ふたりはそろって鎮守さまにやってきました。
   そして、パンパンと、柏手(かしわで)をうっておがむと、四本の針をくみあわせて、小さな鳥居をこしらえました。
   木綿針で作った小さな鳥居ですが、これも金の鳥居にはちがいありません。
   この鳥居をお社のまえにたてると、ふたりは手に手をとって、
  ♪おかげでまげが、ゆえました。
  ♪おうけくだされ、金鳥居。
  ♪エーホイ、トントン
  ♪エーホイ、トントン
  と、鳥居のまえでおどりました。
   すると、どうでしょう。
   鎮守さまのとびらがスーと開いて、中から白いひげをはやした神さまが、白いきもの姿であらわれました。
   そして、夫婦の歌にあわせて歌いました。
  ♪仲がよければ、ちえもでる。
  ♪たしかに受けたぞ、金鳥居。
  ♪エーホイ、トントン
  ♪エーホイ、トントン
   神さまとわかい夫婦は、夜の明けるまで歌って踊りました。
おしまい