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7月23日の世界の昔話
ガチョウ番の少女
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むかしむかし、あるところに、年おいた妃(きさき)とお姫さまが住んでいました。
お姫さまが、ある国へお嫁にいく日がやってきました。
妃はたくさんの嫁入り道具を持たせると、お姫さまの侍女(じじょ)もウマに乗せて送りだしました。
その時、妃は自分の血を三滴(てき)たらした白い布を渡し、
「きっと、何かの役に立つでしょう」
と、いいました。
移動の途中、お姫さまはのどがかわいて侍女にたのみました。
「あの、のどがかわいたので、川の水をくんできてくれませんか?」
すると侍女は、
「ふん! えらそうに。自分でくんできなさいよ!」
と、いって、いうことを聞いてくれません。
お姫さまがなげいていると、妃にもらった三滴の血がいいました。
「これをお妃さまが知ったら、心臓がはれつなさいますよ。さあ、もういちど侍女に命令するのです」
「でも・・・」
おとなしいお姫さまは、なにも言えませんでした。
しばらくすると、侍女がお姫さまにいいました。
「あんた、あたしとウマをかえなさい! いいウマに乗るのはあたしよ。それから、服も取りかえるのよ!」
と、いったのです。
お姫さまはしかたなくウマと服を取りかえると、侍女のウマに乗ったままで、結婚相手の王の待つ城へととうちゃくしました。
お姫さまのウマにのった侍女は、王さまの前に進み出るといいました。
「こんにちは、王さま。わたしが、王子さまの結婚相手の姫です。そしてあれはわたしの侍女です。役立たずですが、こき使ってやってください」
侍女の言葉に、お姫さまはビックリ。
「あ、あの。わたしは・・・」
お姫さまが本当のことを言おうとすると、お姫さまに化けた侍女がこわい顔でにらみました。
「はやく下がりなさい! クズクズすると、ムチを打つわよ!」
こうしてこの日から、お姫さまはガチョウの世話をする、ガチョウ番になってしまったのです。
さて、お姫さまに化けた侍女は、すっかりお姫さま気取りで、結婚相手の王子にたのみました。
「わたしの連れてきたウマを殺してくださいな」
侍女は自分の秘密を知っているウマが、いつ本当のことを告げてしまうかと、心配でならなかったのです。
こうして、お姫さまのウマは殺されました。
ガチョウ番になったお姫さまは、この話を聞くとたいへんかなしみ、ウマの皮をはごうとする職人にたのんで、その首をもらうと、門の壁にかざりました。
それからガチョウ番のお姫さまは、ガチョウの世話をするたびに、そのウマの首に話しかけたのです。
その事を知ったまわりの人たちは、気持ち悪がって、この話を王さまに報告しました。
「そのガチョウ番ときたら、ウマの首と会話してるのです。しかも、ウマの首もそれに返事をするのですよ」
「そうか。もしかするとそのガチョウ番は、魔女(まじょ)かもしれない。よし、たしかめてみよう」
そして娘とウマの会話をきいた王さまは、彼女こそが本当のお姫さまで、王子と結婚しようとしている女が侍女だと知ったのです。
王はガチョウ番の娘をよぶと、彼女に王女の衣装(いしょう)をきせてみました。
すると、あの侍女とは比べものにならないほどの美しさです。
さっそく王さまは王子をよんで、こっちが本物のお姫さまだと告げました。
本物のお姫さまの美しさに一目ぼれした王子は、ニセ者のお姫さまにワナをしかけることにしました。
その日の夜のパーティーで、王子はニセ者のお姫さまにたずねました。
「じつは、自分の主人をだまして、その主人の相手と結婚しようとする女がいるのだが、姫はどうするべきだと思う?」
まさか、自分の事とは思っていないニセ者のお姫さまは、
「そんなとんでもない女は、すぐに死刑にするべきでしょう」
と、答えたのです。
「そうか、ではそうしよう」
ニセ者のお姫さまは、すぐに死刑になりました。
そして本物のお姫さまは王子さまと結婚して、いつまでもしあわせにくらしたのです。
おしまい